総合コンサルファームから大手総合商社へ:投資先バリューアップの最前線で活躍(ポストコンサル体験談)

新卒で大手重工メーカーに入社し、その後総合コンサルティングファームを経て、現在は大手総合商社で活躍されている方にインタビューしました。転職のきっかけや商社での仕事の面白さ、ワークライフバランスの変化など、様々な観点から詳しくお話を伺いました。

Interviewee Profile

新卒で大手重工メーカーに入社し、品質保証、技術開発、事業企画、生産企画などに関わる。海外駐在なども経験した後に、大手総合コンサルティングファームに転職し、製造業のクライアントの製造・調達プロセスの改善やDXなどを支援。その後、コンサルでの経験を活かして事業開発をしたいと考え、大手総合商社に転職。現在はグローバルでの新技術への投資や新規事業開発に関わる。

目次

新卒で大手重工メーカーに入社。
海外駐在をきっかけに総合コンサルティングファームへ転職

―簡単にご経歴を教えてください

新卒で大手重工メーカーに入社し、主に技術系の職務に従事しました。10年以上の在籍期間中、品質保証、設計、事業企画、生産企画など、様々な部門で経験を積み、海外駐在の機会にも恵まれました。その後、大手総合コンサルティングファームに転じ、製造業のクライアントを対象としたシステム導入や事業戦略立案のプロジェクトなどに携わりました。在籍期間は2年弱ではありましたが、スキップでマネージャーに昇格し、プロジェクトリーダーを務めるなど、非常に濃い時間を過ごすことができました。現在は大手総合商社に転職し、主に製造業の領域において、先進的な技術を有するスタートアップへの投資や、投資先企業のバリューアップを担当しています。

―1社目の会社での仕事内容を具体的に教えてください。

理系の学生だったこともあり、製造業の世界で技術者としてのキャリアを築きたいと考え、重工メーカーに入社しました。最初は品質保証を担当しており、取り扱っている製品で不具合が発生した場合に、その原因を調査する仕事を行っていました。その後、設計部門に異動し、本格的に技術者として働いていました。具体的には、海外メーカー等と共同で新製品の開発する仕事などに携わりました。

その後、別の新製品開発プロジェクトにおいて、協業先である海外メーカーへ駐在員として派遣されました。数年間の海外駐在期間中は、プロジェクトマネジメントやサプライチェーンマネジメントなどを経験する機会に恵まれました。

―そのような中で、コンサルティングファームに転職された理由を教えてください。

海外駐在中に、「自分は大手メーカーの看板のもとでは色々な仕事ができているけれど、果たして自分にどのようなスキルがあるのか」と考えるようになったことがきっかけです。やはり、海外のビジネスパーソンは、自分自身のスキルを明確に言える人が多いですし、キャリアアップを目指して仕事を変えていくのが一般的です。そうした環境にいた中で、帰任後の転職を視野に入れるようになりました。

実は当時、商社への転職にも関心を抱いていました。海外駐在中に大手商社の方と協働する機会があり、その業務の魅力を実感したためです。例えば、私が関わっていた業界では、駐在中に経験したような新規開発プロジェクトは10~20年に1度の稀有な機会です。対照的に、商社では大きな案件が継続的に舞い込み、潤沢な資本力を背景に、頻度高くバッターボックスに立つことができます。

しかしながら、当時の商社は中途採用にまだ消極的で、私のキャリアに適したポジションの募集も見当たりませんでした。そこで、個人の能力を磨くステップとして、コンサル業界への転職を考えるようになりました。

―コンサルティングファームでの主なプロジェクト経験についてお聞かせください。

一番長く携わったのは、大手製造業クライアントの基幹システム刷新支援プロジェクトです。当時ITシステムの知見やスキルは全くありませんでしたが、幸い前職の業務知見が活かせるプロジェクトだったため、最初の3ヶ月間は苦労しつつも、徐々にプロジェクトをうまく推進できるようになりました。その後は事業戦略の立案プロジェクトなどにも関わるようになり、少しずつ自分でプロジェクトを回せるようになっていきました。結果的に最短でマネージャーにも昇格することができ、在籍期間は2年弱でしたが、その濃密な経験は前職での5〜6年分に匹敵するものでした。

コンサルで身につけたスキルを実戦の場で活かすために、大手総合商社へ転職

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―コンサルティングファームで順調にキャリアを積まれていた中で、大手総合商社へ転職した理由を教えてください。

きっかけは、ハイクラス転職サイトを介したエージェントからの接触でした。提案された商社のポジションが私の経歴にぴったりで、絶好の転職機会だと感じました。

実は、コンサルティングファーム入社から約1年が経過した頃から、次のキャリアステップを模索し始めていました。複数のプロジェクトを経験し、コンサルタントの仕事の進め方がある程度理解できたという自負がありました。また、コンサルティング業界特有の「プロジェクトガチャ」、つまり必ずしも希望する案件に携われるとは限らない不確実性に対する懸念もありました。当時は魅力的な案件に恵まれていましたが、この好況が継続するかどうかは不透明でした。

加えて、コンサルティングを通じて獲得した多様なスキルを、もう一度ビジネスの現場に戻って、実践の場で試したいという気持ちもありました。例えるならスポーツで新しい技を覚えたので、早く試合に出て使いたいというような気持ちです。

―現在の仕事について具体的に教えてください。

商社への転職後、最初に携わったのは製造業企業への投資案件でした。この業務では、事業分析や投資後の戦略立案を含むビジネスデューデリジェンス(DD)に従事しました。商社内には製造業の経験がない方も多く、メーカ―出身の私の知見が求められました。プロジェクトは、コンサルティングやFA業界の出身者が多いコーポレートチームと協働で推進しました。

製造業の知見を基盤としつつ、コンサルティングファームで培ったスキルを活かして、投資後の事業戦略を描き、投資候補先のマネジメント層に提案していく、非常にやりがいのある仕事でした。

結果として投資が実現し、現在は株主の立場から、バリューアップを支援しています。この業務に稼働の約50%を割り当て、残りの時間は主に技術系スタートアップを中心とした新規投資先の発掘に充てています。世界中から寄せられる多様な投資案件に対し、目利きとして適切な選別を行っています。

中長期視点で投資・バリューアップに関われることが、
総合商社の事業投資の面白さ

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―投資先のバリューアップの仕事の面白さ・やりがいを教えてください。

商社として投資を行って株主になると、最終的な責任やリスクは自分たちに跳ね返ってきます。そうしたリスクも考慮しながら、意思決定をして事業を推進できるというのは、現職ならではの醍醐味です。投資先へのハンズオン支援を行うコンサルティングファームでも類似の経験は可能かもしれませんが、大手コンサルティングファームでは通常、出資までは行いません。実行段階で自らが責任を負うという立場は、緊張感を伴いますが、同時に非常に刺激的で、面白いと感じています。

―投資を実行してバリューアップをするという意味では、PEファンドの仕事に近いイメージも持ちました。

商社とPEファンドの投資アプローチの主な相違点は、エグジット戦略にあります。PEファンドは明確にエグジットを見据えて投資とバリューアップを行います。一方、商社の場合は、ある程度継続的な事業運営を前提としています。そのため、商社では、投資先の利益拡大を図りつつ、社内の他部門や既存の投資先とのシナジー創出など、中長期的な視点で多角的な戦略を検討します。じっくりと何かに取り組みたいという方にとっては、商社の事業投資は面白いと思います。

―コンサル出身者だからこそ、商社の仕事で活かせたスキルはありましたか?

出資後のPMI(Post Merger Integration)実行において、タスク設計やプロジェクトマネジメントの面で、コンサルタント経験が大いに活きました。これらの業務は、コンサルティング経験のない方には難しい側面があると実感しています。

もちろん商社プロパーの方もある程度こなすことができますが、コンサル出身者と比較すると、タスク設計の粒度感にばらつきがあったり、プロジェクトの進め方が曖昧になりがちだと感じます。

意思決定の長さ・意思決定者の多さには苦労

―大手商社に転職してから苦労したことはありますか?

最も大きな苦労は、意思決定の長さ・意思決定者の多さです。基本的に多くの案件が全社の経営会議に上程されますが、その過程で多くの人から様々な意見が寄せられます。例えば「今回の投資は時期尚早ではないか」という意見を言う人もいます。しかし、完全な反対ではなく「個人的な見解としては」と前置きをつけることが多いです。そのため、誰が意思決定に責任を負うのかが見えづらく、結果としてプロセスが長引いたことには苦労しました。

コンサルティングファームでは、パートナーがプロジェクトの方針を迅速に決定し、マネージャーレベルでもある程度の裁量を持ってプロジェクトを進行できます。しかし商社ではその裁量権は限られています。基本的に一階層ずつ順を追って話を上げていく必要があり、複数の階層を飛び越えてコミュニケーションを取ることは困難です。

ただし、最近では組織改革などを通じて、こうした意思決定の課題を改善しようとする動きも見られます。

キャリア採用組が働きやすい環境づくりが進んでいる。
ワークライフバランスは非常に良い

―商社は新卒文化の強い業界かと思いますが、中途転職者の働きやすさはいかがですか?

最近では、各総合商社がキャリア採用を拡大する傾向にあり、中途転職者にとって働きやすい環境づくりが進んでいます。例えば、転職者同士のネットワーキングの機会や、プロパー社員との交流を促進するイベントが開催されるようになってきました。

私が入社した当時は、オンボーディング支援のような制度はほとんど整備されていませんでしたが、状況は大きく変化しています。こうした取り組みにより、中途転職者の働きやすさは着実に向上していると実感しています。

―ワークライフバランスはどのように変わりましたか?

投資実行やPMIに携わっていた時期は比較的忙しい日々でしたが、コンサルティングファームで経験した長時間労働と比べると、労働環境は大幅に改善されたと感じています。商社の仕事の特徴として、コンサルティングのような短期的なアウトプット重視ではなく、中長期的な視点で成果を追求する点が挙げられます。

また、先ほど触れた通り、会社としての意思決定プロセスに時間を要することも影響しています。結果として、全体的な仕事のペースが緩やかになり、過度に激務に追われることが少なくなりました。

―現在の勤務時間の目安を教えてください。

大体9時~18時30分です。もちろん、海外の協業先とのウェブ会議などがある場合は、この時間枠を超えることもあります。ただし、そういった場合でも、深夜に及ぶような極端な時間設定は避けられています。例えば、夜間の会議であれば20時から21時頃、早朝であれば6時から7時頃に設定されるのが一般的です。

―現職の同僚などを見ていて、コンサルから商社に転職している方は、どのような方が多いですか?

コンサルから商社への転職者は、かなり多様です。コンサルティングファームでは一般的に「業界」と「サービス」という2つの軸で部門が構成されていますが、その両方から転職者が来ています。

業界軸の部門から転職してきた方々は、その専門性を活かせる部門に配属されることが多いです。彼らは主に事業開発に携わっており、私自身もこのケースに該当します。一方、サービス軸の部門からの転職者は、多くの場合コーポレート部門などに配属されます。彼らは専門性を活かし、投資検討におけるビジネスデューデリジェンスやマネジメントサクセッションなどの業務を担当しています。

転職時の選考プロセスは長く、選考倍率も優に100倍を超える

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―転職活動は1回目も2回目もエージェントを活用しましたか?

2回の転職活動とも、エージェントを活用しました。具体的には、ハイクラス転職サイトを通じてエージェントから提案を受け、その後選考に進みました。

―転職活動はどのように進みましたか?

現職への転職活動では、面接が計4回行われ、選考プロセス全体で半年近くを要しました。コンサルティングの業務を続けながらこの長期にわたる選考を受けていたため、精神的な負担も大きかったです。選考に時間がかかった背景には、応募者が非常に多かったことがあるようです。書類選考を含めると、選考倍率は100倍を軽く超えるほどだったと聞いています。

―今後のキャリアについてはどのように考えていますか?

今のところは、現職でポジションを変えていくということを考えています。ポジションを変えるといっても単に昇進したいわけではなく、投資先への出向や駐在経験を積むことに興味があります。最初に勤務したメーカーでの海外駐在で得た貴重な経験を踏まえ、商社でも同様の機会を求めています。具体的には、海外で事業会社を立ち上げ、そこに出向してバリューアップに挑戦するような仕事に取り組みたいと考えています。

新卒コンサル組はキャリアのどこかで専門性を磨く決断をする必要がある

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―現役のコンサルタントに向けて、ポストコンサルキャリアという観点で、何かアドバイスをいただけますか?

コンサルティングファームにいらっしゃる方は、新卒たたき上げの方と、中途で事業会社から転職してきた方の2つに大きく分けられると思います。

新卒からコンサルティングキャリアを積んだ方へのアドバイスとしては、コンサルティングで培った汎用的なスキルは確実に役立ちますが、キャリアアップしていくにはそれだけでは不十分です。どこかの段階で専門性を磨く必要があります。この専門性の習得には時間がかかるため、腰を据えて取り組む覚悟が必要です。また、専門性を磨く過程で一時的に給与が下がる可能性も受け入れる心構えが必要でしょう。

一方、事業会社からコンサルティングファームに転職した方の場合、元の業界に戻るパターンが多いように見受けられます。この場合、業界知見や専門性は問題ないでしょう。しかし、コンサルティング経験で何を得て、どのようなスキルセットで価値を提供できるのかを明確に示す必要があります。業界知見だけでは差別化が難しいため、コンサルティングで得たスキルとの掛け合わせで自分の強みをアピールすることが重要です。個人的な見解としては、コンサルティングファーム内である程度昇進してから転職するのが良いのではないかと考えています。

―有難うございます。新卒入社組は最近キャリアに悩んでいる方も少なくない印象です。

私自身、コンサルティングファームの中にいた時に、それは感じました。コンサルティングファーム内でガンガン上を目指すという方は全く心配いりませんが、例えば「様々な業界を見るためのモラトリアム期間」としてコンサルを選んだ方の場合は、専門性を築く決断を先送りにしてしまったとも言えるかもしれません。

コンサルティングファームの高給に慣れてしまうのも一つの悩みポイントです。どこかで年収を下げてでも、特定の専門性を身につける決断が必要になるでしょう。その決断を避け続けると、ハードな働き方から抜け出すのは難しくなるかもしれません。

その意味で、商社はポストコンサルのキャリアとしてかなり魅力的な選択肢だと考えています。年収は下がらず、むしろ上がる可能性もあり、働き方も緩やかになります。ただし、その分転職の競争率は激しく、結果的に「あなたの売りは何か」という専門性を問われることになります。少なくとも、「コンサルティングプロジェクトを通じて、XX業界やXX領域については詳しくなった」というようなことを自信を持って言える状態にしておく必要はあるでしょう。

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