【生成AI活用事例】国内外の金融(銀行・証券・カード)における事例を徹底解説

国内外の金融企業における生成AI活用事例

生成AI(Generative AI)のビジネス活用が急速に進む中で、金融機関(銀行やクレジットカード、証券等)においても具体的な活用事例が増えてきています。本記事では、国内外の金融機関における生成AIの活用事例について、「背景・課題」「取り組み内容」「成果」を詳しく解説します。また、金融業界における生成AI活用のハードルや注目の活用方法などにも触れます。

目次

生成AIが金融業界に与える影響と具体的な活用方法

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金融業界は生成AIの影響を最も受ける業界

実は銀行や証券などの金融業界は、最も生成AIによる自動化や改善が見込まれる業界です。

世界的な金融サービス企業であるCiti Groupが2024年に発行したレポート「AI in Finance:Bot, Bank & Beyond」では、生成AIの登場を受けて、あらゆる業界の中で銀行が最も業務の自動化や改善の影響を受けると語っています。

生成AIによる影響(業界別)

営業・顧客対応からオペレーション・本社業務まで幅広く活用される

では、生成AIは金融業界において具体的にどのように活用されるのでしょうか。

金融業界における生成AI活用事例一覧

上記の図では、主な活用方法について整理しています。「営業・顧客対応」「金融オペレーション」「コーポレート」の各領域において、生成AIは様々な活用の可能性があることが分かります。

金融業界における生成AI活用のハードル

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ハルシネーションによる正確性・信頼性が最大の懸念

生成AI活用において一般的に挙げられるリスクとして、以下の7点があります。

どのリスクも対策が非常に重要ですが、特に金融機関にとっては「正確性・信頼性リスク」が生成AI活用の障壁となりやすいでしょう。金融業においては、誤った情報に基づく誤りが発生すると大きな損失や信用失墜につながる可能性があるため、慎重にならざるを得ません。

生成AI活用のリスク

正確性・信頼性リスク

生成AIは、学習したデータを参考に予測した答えを返す従来AIとは異なり、自ら学習し続けて新たなアウトプットを生成します。そういった中で、生成AIが誤った情報をもっともらしく答える「ハルシネーション」と呼ばれる現象が起きる可能性があります。顧客に対して誤った情報を提供してしまった場合、金融機関にとって非常に重要な信頼性を損なうリスクがあります。こうしたリスクを抑えるためには、インプットデータの偏りや最新性・正確性の担保などが重要です。

権利リスク

生成AIが学習したデータセットには著作権のあるコンテンツが含まれている場合があり、それを基に生成されたコンテンツが著作権を侵害するリスクがあります。たとえば、生成された画像や文章が元の著作物に似ている場合、著作権侵害の問題が発生する可能性があります。

倫理・道徳的リスク

生成AI アルゴリズムは、トレーニングデータに存在するバイアスを意図せずに学習し、融資や意思決定における差別的慣行などの不公平な結果につながる可能性があります。バイアスのリスクを軽減するために、倫理ガイドラインの制定や監査を実施する必要があります。

コンプライアンスリスク

金融業界は厳格な規制があるため、生成AIの導入がデータ保護法、消費者権利規制、金融取引法に準拠していることをしっかりと確認する必要があります。

プライバシーリスク

生成AIが学習するデータには、機密情報や個人情報が含まれている可能性があります。これが不適切に使用されると、データ漏洩のリスクが高まります。入力した個人情報がAIに学習されると、その情報は他の人がAIに対して質問をする際に使用される可能性があるため、データが学習に用いられないようにすることも重要です。

説明責任リスク

生成AIが提供する情報(例えば見積もりや提案)の根拠が明示されていない場合、顧客に対する説明責任を果たせない可能性があります。回答の根拠となる情報やソースを明示する仕組みを構築することが重要です。

セキュリティリスク

生成AI(大規模言語モデル)ではプロンプトと呼ばれる指示文を入力して利用しますが、そのプロンプトの入力内容を工夫し、サービス提供者が抑止している情報を引き出そうとする攻撃手法「プロンプトインジェクション」があります。顧客になりすますことで口座情報やクレジットカード番号を詐取するリスクなどが考えられます。

生成AIの導入にあたっては単にビジネス的な観点やデータサイエンスの知見だけでなく、様々なリスクに対応する必要があることがわかります。そういった意味では、後ほど紹介するDiscover Financial Services社のAIガバナンス評議会の設置などは、参考となる対応策の一つといえるでしょう。

生成AIの導入はスピーディに進んでいるが、顧客接点への活用には慎重

金融業界における生成AIの活用状況を見ると、現状では主にリスクの低い内部用途に限定されています。

例えば、従業員からの商品や手続きに関する問い合わせに対応するチャットボットの導入などが挙げられます。多くの金融機関は生成AIに注目しつつも、その採用には慎重な姿勢を見せており、ミドルオフィスとバックオフィスを中心に内部実験を行い、顧客接点への導入はPoCなどを通じて慎重に進めている段階にあります。ハルシネーションによる正確性・信頼性のリスクが懸念される中、このような慎重なアプローチは理解できるものです。

生成AI活用を推進するためには、現時点で実行可能な取り組みから小さく始め、成果を積み重ねていくことが重要です。そういった意味では、導入しやすいバックオフィス・ミドルオフィスから着手することは適切なアプローチと言えるかもしれません。

金融業界における生成AI導入ステップ

そのような状況下で注目すべきは、後述するオランダのING Bankの事例です。同行は顧客の問い合わせ対応チャットボットに生成AIを活用しており、顧客接点での直接的な生成AI活用事例として参考になります。ING Bankはテスト期間中、一つ一つの回答をマニュアルで確認するなど、リスク対応に非常に力を入れながら、生成AIの導入に成功しています。

ただし、顧客接点に直接用いないからといって、正確性・信頼性の低さが許容されるわけではありません。従業員向けの支援であっても、最終的には従業員から顧客に対する情報提供やアドバイスに用いられるためです。例えば、後述するモルガン・スタンレー社は、FA(ファイナンシャル・アドバイザー)向けのバーチャルアシスタントを導入していますが、頻出の7,000質問に対する承認済み回答を準備するなど、正確性・信頼性を非常に重視して導入に臨んでいます。

特に生成AI活用が期待される領域:金融犯罪の防止

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金融業界における生成AIの活用において、筆者が特に期待を寄せているのが「金融犯罪の防止」の領域です。

深刻化する金融犯罪による被害

近年、詐欺やマネーロンダリングなどの金融犯罪が増加の一途をたどっています。eコマースやデジタル決済の普及に伴い、振り込め詐欺、なりすまし詐欺、フィッシングメールなどのサイバー金融犯罪、仮想通貨を利用した投資詐欺など、多種多様な手口による金融犯罪が横行しており、その被害額は年々無視できない規模に膨れ上がっています。

詐欺被害の大きい米国では、Federal Trade Commision(連邦取引委員会)が毎年の消費者詐欺被害額を報告しており、その金額は年々増加傾向にあり、2023年には10億ドルを超えました。

消費者詐欺被害:ビジネスメール詐欺・フィッシング、なりすまし詐欺、恋愛詐欺・家族を装う詐欺、前払い金詐欺(宝くじや賞金の受け取りを装う詐欺)、就職詐欺(偽の求人や雇用を装った詐欺)など

米国における消費者詐欺被害額

さらに、Nasdaqが発表した「2024 Global Financial Crime Report」では、2023年の世界全体の詐欺被害総額(消費者詐欺と銀行詐欺の合計)が4,860億ドルに上ると報告されています。

(Millions of USD)Global Total
消費者詐欺被害ビジネスメール詐欺/フィッシング/データ漏洩9,973
なりすまし詐欺:チャリティ、ビジネス、政府、法執行機関6,821
信頼詐欺:ロマンス、親族のなりすまし3,776
前払い金詐欺/宝くじ/賞金/助成金詐欺19,146
雇用詐欺3,895
銀行詐欺被害支払い詐欺386,835
小切手詐欺26,589
クレジットカード詐欺28,542
消費者詐欺被害額合計43,611
銀行詐欺被害額合計441,966
詐欺被害額総計485,577

銀行詐欺:支払い詐欺(クレジットカードの送金やデビット口座の不正利用による詐欺)、小切手詐欺(小切手の偽造や不正キャッシング)、クレジットカード詐欺(クレジットカードの不正利用)

加えて、不正な手段で得た資金を合法的に見せかけるマネーロンダリングに関連する被害額は、約3兆円にも及ぶと報告されています。

金融機関の責任範囲の拡大

金融犯罪が深刻な社会問題となる中、英国では2016年頃より大手金融機関や業界団体などが個人救済ルール案の検討を開始し、2019年には下院委員会において「リアルタイム送金を使ったAPP不正による個人の損失に対し、金融機関が返金義務を負う」というルールの法制化が決議されました(現在ルールの詳細が審議中)。

従来は自己責任とみなされていた詐欺被害ですが、今後は世界的に金融機関などが返済義務を負う流れが加速する可能性があります。日本国内でも金融犯罪は深刻化しており、同様の動きが起こり得るでしょう。

APP不正:騙された本人が自分の意思で犯人に送金してしまう被害(オレオレ詐欺など)

生成AIが金融犯罪防止にもたらすもの

深刻さを増す金融犯罪に対し、生成AIはその有効な対策として注目されています。KPMG USが発表した米国における調査報告書『The generative AI advantage in financial services』によると、76%の経営者が詐欺防止を生成AIの活用先とする計画を持っていると回答しており、これはカスタマーサービス(62%)やコンプライアンス対応(68%)よりも高い数値です。このことから、詐欺防止分野での生成AI活用への期待の高さがうかがえます。

米国の金融サービス事業者経営層が計画する生成AI活用

生成AIを活用することで、膨大な量の取引データ、顧客の行動パターン、過去の不正事例を分析し、従来のルールベースのシステムでは検出が難しかった微妙な異常や不正傾向を特定できる可能性があります。また、リアルタイムでの逸脱警告により、迅速な介入が可能となります。

生成AIは、受信データから継続的に学習し、進化する脅威に先手を打つことで、新たな不正手口にも適応できるとされています。また、AIモデルの学習において課題となるデータ不足についても、生成AIを用いて人工的な不正取引データを作成し、不正検出モデルのトレーニングに使用できるより多様なシナリオセットを提供できます。これは、不正検出アルゴリズムの堅牢性と精度向上に大きく貢献します。

生成AIを活用した不正検知については、JP Morgan、Stripe、CapitalOneなどの大手金融事業者が既に取り組みを始めていますが、特に注目すべきはFeaturespace社です。同社は世界初の大規模生成トランザクションモデル(LTM:Large Transaction Model)「TallierLTM™」をリリースしており、金融犯罪防止におけるChatGPTのようなインフラシステムを提供しています。

カテゴリサブカテゴリ活用方法事例(クリックして遷移)
営業・顧客対応顧客対応の自動化・効率化生成AIを活用したコールセンター支援Discover Financial Services
生成AIチャットボットによる問い合わせ対応の改善ING Bank
営業担当者支援生成AIを活用したFA向けのバーチャルアシスタントモルガン・スタンレー
成AIチャットボットによる営業⇒本部間の問い合わせ対応自動化肥後銀行
顧客向けサービスの高度化生成AI活用した機関投資家向けサービスJP Morgan
オペレーション金融犯罪防止金融詐欺検知における世界初の生成AI活用Featurespace
生成AI活用によるKYC精度の飛躍的向上Airwallex
融資業務効率化生成AIを活用した融資稟議書作成の自動化福岡フィナンシャルグループ
債権回収効率化生成AIを活用した債権回収の効率化クレジットエンジン
コーポレート規制対応の効率化生成AIを活用した規制コンプライアンスの効率化Citi Group
マーケティング業務効率化生成AIによるマーケティングデータ分析の民主化イオンフィナンシャルサービス
自社の資産運用最適化生成AIによる自社運用戦略・ポートフォリオ最適化

海外の金融機関における生成AI活用事例

ここでは海外の金融機関における生成AI活用事例について、それぞれ背景・課題、取り組み内容、成果を詳しく解説します。

JPMorgan Chase:生成AI活用した機関投資家向けサービス

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紹介企業JPMorgan Chase
企業概要JPモルガン・チェース(JPMorgan Chase & Co.)は、アメリカ合衆国に本社を置く、世界的な金融サービス企業です。
事例カテゴリ営業・顧客対応×生成AI
事例テーマ機関投資家向けの投資ポートフォリオ検討支援

背景・課題

機関投資家の投資戦略において、新興トレンドに焦点を当てた「テーマ型ファンド」が注目を集めています。AI、クラウドコンピューティング、eスポーツ、再生可能エネルギー、サイバーセキュリティなど、最新分野をテーマとし、その領域で将来性のある企業群へ投資することで、魅力的なポートフォリオを構築する手法です。

しかしながら、こうした新興トレンドにおける有望な投資先、特にグローバル規模で隠れた有力企業を発掘することは、容易ではありませんでした。加えて、2020年から2021年にかけて隆盛を極めたテーマ型ファンドは、近年のパフォーマンス低迷により、投資家の関心がやや薄れつつあるとの指摘もあります。

このような状況下、JPモルガン・チェースにとって、テーマ型投資における株式選択の幅を拡大し、その過程を効率化することで、機関投資家のテーマ型投資への興味を再燃させ、自社の取引量増加につなげることが重要なテーマの一つとなっていました。

取り組み内容

2024年、JPモルガン・チェースは生成AIを駆使した機関投資家向け株価指数「Quest IndexGPT」を始動しました。このツールは、OpenAIのGPT-4大規模言語モデル(LLM)を活用し、特定テーマに関連するキーワードを生成。さらに、そのキーワードが出てくるニュース記事等を精査して関連企業を特定し、テーマ別インデックスを構築します。(顧客はブルームバーグとVidaの取引プラットフォームを通じて、「Quest IndexGPT」にアクセス可能)

Quest IndexGPTの概要

成果

GPT-4の採用により、テーマに基づくキーワード生成の精度が飛躍的に向上。機関投資家は、特定テーマに関連する企業について、著名企業のみならず、潜在的な有望企業を含むより広範な投資先候補を容易に把握できるようになりました。同時に、JPモルガン・チェースにとっても、インデックス構築プロセスの大幅な効率化を実現しています。

JPモルガン・チェースは「Quest IndexGPT 」により、機関投資家が特定のテーマに基づいて銘柄選定や投資を行う「テーマ型ファンド」が促進されることを期待しています。

<JPモルガン・チェースのその他の取り組み>

JPモルガン・チェースは同社の従業員5万人に対して、LLMスイートと呼ばれる大規模言語モデルへのアクセスを与えており、文章作成、アイデア創出、文書の要約に活用しています。

また、膨大なIT投資によって先端技術の活用に常に積極的な同行ですが、新技術の実証実験や導入だけでなく、それを使う行員の教育にも力をいれています。資産・ウェルス・マネジメント部門を統括するMary Erdoes氏は投資家向け説明会で、「新入社員全員に、AIが主導する未来に備え、即座にエンジニアリングのトレーニングを実施する」と、同部門の取り組みを語っています。

モルガン・スタンレー:生成AIを活用したFA向けのバーチャルアシスタント

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紹介企業モルガン・スタンレー証券
企業概要モルガン・スタンレー (Morgan Stanley) は、アメリカを拠点とする大手証券会社で、投資銀行業務、証券取引、資産運用、ウェルスマネジメントなどを提供しています。
事例カテゴリ営業・顧客対応×生成AI
事例テーマファイナンシャルアドバイザー向けのバーチャルアシスタント

背景・課題

モルガン・スタンレー証券は2016年ころからウェルスマネジメントの領域でデジタル化に取り組んできました。同社は、ファイナンシャルアドバイザー(FA)の顧客サービス向上を目指し、Next Best Action(アドバイザーの指示に従ってカスタマイズされたメッセージを顧客に配信するAIベースのエンジン)の導入など、数々の取り組みを行ってきました。

そのような中で、2022年のChat-GPT公開を機に、同社はOpen AIとウェルスマネジメント部門における生成AI活用の可能性を探り始めました。

モルガン・スタンレーのウェルスマネジメント部門とは?

この部門は、富裕層向けに資産運用や財務戦略を提供する専門サービスを展開しています。FAが顧客ニーズに応じたカスタマイズアプローチを重視し、資産管理、承継、投資戦略策定などを行います。ウェルスマネジメントは、モルガン・スタンレーの収益の約半分を占める主力事業です。

取り組み内容①

2023年、モルガン・スタンレーは16,000人のFA向けに「AI @ Morgan Stanley Assistant」をリリースしました。このソフトウェアは、Open AIの生成AI技術を活用し、同社の約100,000件の調査レポート・文書をベースにFAからの質問に回答します。これにより、ファイナンシャル・アドバイザーは、顧客からの質問に応えたり、情報提供したりする際に、適切な文書を探し、その長い文書を熟読することなく、以下のような疑問を解消することが可能となります。

主な機能:

  • 投資推奨事項の提供
    • 例)当社の調査機関は Alphabet 株についてどのような見解を持っているか
    • 例)同社の将来の業績について強気と弱気のケースは何か
  • 一般的なビジネス質問への回答
    • 例)IBM の 5 大競合企業はどこか
  • プロセスに関する質問への対応
    • 例)IRA(Individual Retirement Account:個人退職口座) を取消不能信託に含めるにはどうすればよいか
AI@ Morgan Stanley Assistant

なお、モルガンスタンレーは生成AIの正確性・信頼性を担保するために様々な安全対策を講じています。

  1. 自社データのみを使用し、ハルシネーションリスクを低減
  2. 回答のソース文書を明示
  3. 頻出7,000質問に対する承認済み回答を準備
  4. 段階的な導入とテスト体制の確立

ポイント①:自社データのみを使用し、ハルシネーションリスクを低減

「AI @ Morgan Stanley Assistant」は、モルガン・スタンレーの自社データのみを使用し、外部情報は一切利用しません。これにより、AIが誤情報を提供するリスクを最小化しています。なお、同社の知的財産や情報がOpenAIの言語モデルトレーニングに使用されることはありません。

ハルシネーション:生成AIが正確な情報がないのに、あたかも本当であるかのように不正確な内容や根拠のない事実を生成してしまう現象

ポイント②:回答のソース文書を明示

AIの回答生成時、情報源となったドキュメントや該当箇所が明示されます。アドバイザーはこれを参照し、回答の信頼性を容易に確認できます。

ポイント③:頻出7,000質問に対する承認済み回答を準備

一般的な質問7,000件に対し、事前に承認された回答が用意されており、適切な形式で質問された場合、AIはこれらの承認済み回答を提供します。これにより、誤情報生成リスクを軽減し、アドバイザーの業務効率を向上させています。

ポイント④:段階的な導入とテスト体制の確立

モルガン・スタンレーは、AIアシスタントの本格導入前に綿密なテスト計画を実施しました:

  • 約100,000件の社内文書でGPT-4をファインチューニング
  • 300人のファイナンシャルアドバイザーによる数ヶ月間のテスト実施
  • 回答への賛否投票やフィードバックによる精度向上
  • 2023年初旬に1,000人規模でのパイロットテスト実施
  • 2023年秋、十分な精度確認後、米国の全ファイナンシャルアドバイザー約16,000人へ本格展開
AI @ Morgan Stanley Assistantのリリースまでの流れ

取り組み内容②

2024年には、AI @ Morgan Stanley スイートの新機能として「AI @ Morgan Stanley Debrief」をリリースしました。この機能は、顧客の同意のもと、顧客との会議メモ作成、要点の要約、フォローアップメールの草案作成、Salesforceへのメモ保存を自動化します。これにより、アドバイザーの日常業務を大幅に効率化し、クライアントとの有意義な関わりに費やす時間を増やすことができます。

成果

「AI @ Morgan Stanley Assistant」の導入により、FAの管理業務時間の大幅削減と生産性向上が期待されています。「AI @ Morgan Stanley Debrief」も、FAチームから高い評価を得ており、業務効率化に貢献しています。

AI @ Morgan Stanley DebriefへのFAの反応

モルガン・スタンレーの資産管理・投資管理テクノロジー担当最高情報責任者サル・クッキアラ氏によると、かつてロボアドバイザーの登場時に抱いていた懸念と異なり、FAたちは現在のAI技術を自身の業務をサポートする有力なツールとして認識し、積極的に活用しようとしているそうです。

Discover Financial Services:生成AIを活用したコールセンター支援

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紹介企業Discover Financial Services
企業概要アメリカに本社を置く消費者向け金融サービス事業者で、クレジットカード、デビットカード、ローンなどのサービスを展開。ディスカバーカードはクレジットカードの世界7大ブランドの一つとして知られています。また、Discover Financial Servicesは国際カードブランドの一つであるダイナースクラブの親会社でもあります。
事例カテゴリ営業・顧客対応×生成AI
事例テーマ生成AIを活用したコールセンター支援
Capital OneによるDiscover Financial Servicesの買収について

2024年2月、米国クレジットカード決済額ランキング3位のCapital One Financialが、6位のDiscover Financial Servicesの買収を発表しました。現在、金融規制当局による合併審査が進行中です。

Capital Oneは、積極的なM&A戦略とデジタル領域への投資で知られています。その努力は実を結び、JDパワーによる米国全国銀行顧客満足度調査では2020年から2023年まで4年連続で首位を獲得しています。

本買収が実現すれば、Capital Oneにとって、ダイナースクラブネットワークの獲得により、VisaやMasterCardといったカードネットワーク企業への支払い費用削減など、大きなシナジー効果が期待されています。

背景

Discoverは、顧客体験の向上を目指し、コンタクトセンター担当者の生産性を高め、より迅速かつパーソナライズされた対応を実現する取り組みを進めてきました

取り組み内容

2024年、DiscoverはGoogle CloudのAIプラットフォーム「Vertex AI」を活用し、約1万人のコンタクトセンター担当者に生成AI機能を提供開始しました。主な機能は以下の通りです:

  1. インテリジェント文書要約:複雑な社内ポリシーや手順を分析・要約し、即時情報提供を実現
  2. リアルタイム検索支援:自然言語による大規模ナレッジベースへのアクセスにより、情報検索時間を短縮し、実質的な顧客サポート時間を拡大

Discoverは、頻出の質問と予想回答を用いてGoogle大規模言語モデルを調整し、コールセンターソリューションに組み込みました。さらに、自動受け入れテストツールを使用して数百のテストケースを実行し、精度と安全性を確保しています。これにより、リスク管理と迅速な情報提供の両立を実現しています。

Discover社の上級副社長兼最高データサイエンス責任者によれば、Discover社は、生成AI導入における規制や技術的リスクを慎重に管理しながら、シンプルかつ説明可能なアプローチを維持することを目指しています。

AIガバナンス議会の設置

生成AIの多面的な課題に対応するため、サイバーセキュリティ、アーキテクチャ、モデルリスク、コンプライアンス、法務、データサイエンスの各責任者で構成されるAIガバナンス評議会を設立。導入プロセスを包括的に管理しています。

Discover社のAIガバナンス議会

適切なモデル選定の重視

Discover社では、まず解決すべき問題(ユースケース)から、具体的な問題に基づいてモデルの選定を行います。必ずしも最新の大規模モデル(GPT-4やBard)を使用する必要はなく、GPT-2のような小規模モデルも活用しています。

また、モデル選定の際には、サイバーセキュリティやアーキテクチャの原則、モデルリスクを評価する必要があるため、Federal Reserve Board(連邦準備制度理事会)が定めたSR 11-7という規制(債券モデルに関するリスク管理のガイドライン)に準拠しています。

成果

初期結果では、エージェントが通話処理時間を短縮し、社内ポリシーと手順の検索時間を最大 70% 改善できることが示されています。今後の全社展開により、顧客体験と生産性の大幅な向上が期待されています。

ING Bank:生成AIチャットボットによる問い合わせ対応の改善

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紹介企業ING Bank
企業概要ING Bank(アイ・エヌ・ジー・バンク)は、オランダに本拠を置く多国籍銀行です。欧州を中心にグローバルなネットワークを持ち、デジタルバンキングの分野では先進的な取り組みを行っていることでも知られています。
事例カテゴリ営業・顧客対応×生成AI
事例テーマ生成AIチャットボットによる問い合わせ対応の改善

背景

オランダを主要市場とする多国籍金融機関INGは、週に85,000件もの顧客からの問い合わせに対応しています。これらは電話やオンラインチャットを通じて寄せられますが、従来のチャットボットでは40〜45%の解決率に留まっていました。つまり、週に約16,500人(55~60%)の顧客が依然として人間のオペレーターとの対話を必要としており、既存のチャットボットシステムの限界が明らかになっていました。さらに、人間のオペレーターによるサポートは通常の営業時間内に限られるため、顧客は長時間待たされることもありました。

取り組み内容

INGは、この課題に対処するため、マッキンゼーのAIコンサルティング部門QuantumBlackの支援を仰ぎました。そして、わずか7週間という短期間で、リスク管理を徹底しつつ、顧客に即座にカスタマイズされた支援を提供できる生成型AIチャットボットの構築に成功しました。

このチャットボットの構築プロジェクトは、既存のチャットボットを詳細に分析して、具体的な課題を特定することから始まりました。最終的なソリューションは、利用可能なデータストアからの情報取得に加えて、以下のような工夫によって顧客にとって最適な回答を生成することを可能としています。

  • 有用性に基づく回答のランク付けを実施
  • 役立つ回答が複数見つかった場合、曖昧さを回避するために、システムは顧客に複数のオプションを提供

さらに、INGのリスク管理チームがプロジェクトの初期段階から参画し、同社特有のリスク予防策を講じました。例えば、住宅ローンや投資商品に関するアドバイスを回避するなど、金融機関としての責任を果たすための対策が組み込まれています。

ING Bankの生成AIチャットボット

ING Bankは、生成AI技術の導入に際し、徹底したリスク管理を行っています。その慎重なアプローチは以下の点に表れています:

  • 限定的なテスト運用: 当初生成AIチャットボットは、オランダの既存顧客のうち、モバイルアプリのサポートチャット機能を利用している10%に対してのみ、テスト提供されました。
  • 透明性の確保: テスト対象の顧客には、生成AI主導のチャットボットが質問に回答することを事前に明確に通知しました。
  • 厳格な品質管理: 生成AIチャットボットが回答する質問は、毎日「一つずつ」手作業でチェックされました。この徹底した監視により、回答の質と適切性を確保しました。

このような多層的なリスク対策により、INGは顧客接点における生成AIの導入と顧客保護のバランスを取ることに成功しました。同社の取り組みは、金融業界における生成AI導入のベストプラクティスの一つといえるでしょう。

成果

INGの新しい生成AIチャットボットは、従来のチャットボットと比較して、はるかに詳細でカスタマイズされた応答を提供し、顧客の問題解決速度を大幅に向上させました。2023年9月の導入以来、数千人の顧客がこの新しいAIチャットボットを利用しており、これはヨーロッパで初めての実用的な顧客対応生成AIパイロットとなりました。

また、特筆すべきは、このAIチャットボットの開発と導入のスピードです。従来のチャットボット開発が数年を要するケースもあったのに対し、このシステムはわずか7週間という驚異的な速さで構築・導入されました。さらに、導入移行、従来のソリューションと比較して優れた顧客体験を提供し、長い待ち時間を回避できるようになっており、問い合わせ対応に対して即座に満足感を感じた顧客が20%増加するという顕著な改善が見られました。

このテクノロジーの成熟に伴い、より多くの顧客が電話からチャットへと問い合わせ方法を移行することが予想され、INGのコールセンターの負荷軽減にもつながる可能性があります。今後、INGはチャットボットのパフォーマンス改善に継続的に取り組むとともに、このサービスを他国へ拡張することを計画しています。これにより、顧客サービスの質をさらに向上させ、業務効率化を進めることが期待されています。

Featurespace:金融詐欺検知における世界初の生成AI活用

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紹介企業Featurespace Limited
企業概要Featurespace社は、2008年に英国ケンブリッジ大学工学部から誕生した、金融犯罪防止分野で世界をリードする企業です。AI技術を活用した詐欺やマネーロンダリング対策に強みを持ち、エンタープライズ向けに高度なソリューションを提供しています。
事例カテゴリ金融オペレーション×生成AI
事例テーマ金融詐欺検知における世界初の生成AI活用

2024年9月末に、Visa (NYSE: V) はFeaturespace を買収する正式契約を締結したことを発表しました。

背景

2008年の創業以来、Featurespace社は詐欺防止と金融犯罪リスク軽減の分野で先進的なソフトウェアを提供し続けてきました。同社の主力製品「ARIC™ Risk Hub」は、独自開発の Adaptive Behavioral Analytics(適応行動分析)と Automated Deep Behavioral Networks(自動化された深層行動ネットワーク)を駆使した機械学習プラットフォームです。

従来の不正検知システムが既知の不正パターンに反応するのに対し、「ARIC™ Risk Hub」は個々の顧客の通常行動を迅速に学習し、それとの乖離を検出するアプローチを採用しています。この革新的な手法により、詐欺、マネーロンダリング、その他の金融犯罪を、従来システムを上回る精度で検知し、同時に誤検知率の低減を実現しています。この高い技術力が評価され、Featurespace社は世界中の金融機関や決済サービス事業者にソリューションを提供するに至っています。

そういった中で、さらなる技術革新を目指し、Featurespace社は生成AIの活用を積極的に検討してきました。現代の金融システムにおいて、多くの不正防止ソリューションが機械学習モデルを採用していますが、その大半は教師あり学習に依存しています。一方、ChatGPTに代表される大規模な自己教師あり生成モデルは、自然言語処理の分野で目覚ましい成果を上げていますが、複雑な金融取引への適用はこれまで実現していませんでした。

この状況の背景には、金融業界特有の厳格なデータ規制が挙げられます。自己教師ありモデルの構築に必要な規模と多様性を持つ金融データの収集が極めて困難であるという現実があります。加えて、言語モデルをトランザクションベースの金融システムに適合させる試みも、期待されたほどの成果を上げていないのが実情でした。

金融業界における生成AI活用の課題

取り組み内容

2023年末、Featurespace社は世界初の大規模生成トランザクションモデル(LTM:Large Transaction Model)「TallierLTM™」をリリースしました。

「TallierLTM™」は、決済事業者が直面している最大の課題であるカード詐欺の解決を目的としており、Chat-GPT等の大規模言語モデルとは異なり、消費者行動に焦点をあてています。具体的には、欧州180の金融機関から収集した51億件もの取引データを用いて大規模な事前トレーニングを実施し、不正検出率を飛躍的に向上させることに成功しています。

組み込み API を介して金融機関に接続し、数十億件のトランザクションを分析して、たとえば短期間の異常な支出パターンや、消費者と販売者間の異常な支出パターンを検出します。

「TallierLTM™」は金融犯罪防止におけるChatGPTのようなインフラシステムとなる可能性があり、金融セキュリティの新時代を切り開くものとして業界から大きな注目を集めています。

モデル学習に必要な大規模な金融取引データの取得

「TallierLTM™」開発のカギとなったのは、Pay.UKが主導した画期的なパイロットプログラムへの参画です。このプログラムは、急増するAPP詐欺*から英国の消費者を守るべく、国内金融機関の統合データを活用した詐欺防止ソリューションの開発を目指すものでした。

Featurespace社は、このプログラムの参加企業として選出され、英国初となる画期的なデータ共有契約に基づき、大規模な過去の金融取引データを学習に用いる稀有な機会を得ました。Pay.UKは約1年にわたり、銀行、住宅金融組合、決済サービスプロバイダーなどと綿密に連携し、データのプライバシーとセキュリティを最優先しつつ、厳格な使用範囲内で安全かつ合法的なデータ処理を実現しました。

この取り組みの背景には、APP詐欺*の急増があります。2022年から2023年にかけて、その件数は12%増加し、損失総額は4億5,970万ポンドに達しました。

APP詐欺(Authorised Push Payment Fraud):正規の支払い手続きを装って行われる詐欺の一種で、被害者が自ら騙されて詐欺師に送金してしまうことが特徴です。なりすまし詐欺などがこれに該当します。

トランザクションデータによるモデルトレーニングの知見

Featurespace社は、主力ソリューション「ARIC™ Risk Hub」において、トランザクションデータに対するディープラーニングモデルの適用で成功を収めていました。この豊富な経験と知見が、大規模生成AIモデルの構築において大きな強みとなりました。

APIによる既存モデルとの併用が可能

「TallierLTM™」の特筆すべき特徴の一つは、APIを介して既存のあらゆるモデルに追加インプットとして適合できる点です。これにより、金融機関は既存の不正検知システムを容易にアップグレードすることが可能となります。

多くの金融機関が長年使用してきたレガシーシステムの課題に直面している中、新システムの導入には置き換えのリスク、リソースの問題、コストの懸念が付きまといます。「TallierLTM™」は、既存システムの完全な置き換えを必要としない設計により、金融機関にとって導入の障壁を大幅に低減しています。

成果

「TallierLTM™」をシステムに組み込むことで、従来ベースラインと比較して、最大 71% の不正行為の追加値がモデルによって捕捉されました。

Airwallex:生成AI活用によるKYC精度の飛躍的向上

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紹介企業Airwallex PTY LTD
企業概要Airwallexは、2015年に香港に設立された、中小企業向けのクロスボーダー決済プラットフォームを開発するフィンテック企業です。銀行口座や法人向けクレジットカード、経費管理システムに加え、後払いの決済サービスなどを提供しています。Airwallex は世界中で 100,000 を超える企業を支援しており、そのサービスは Brex、Rippling、Navan、Qantas、SHEIN などのブランドで使用されています。
事例カテゴリ金融オペレーション×生成AI
事例テーマ生成AI活用によるKYC精度の飛躍的向上

背景

近年、マネーロンダリングなどの金融犯罪防止の観点から、KYC(Know Your Customer)と呼ばれる本人確認手続きの重要性が増しています。従来は金融機関での取引に限られていたKYCですが、オンライン取引の普及に伴い、多様な業種でその必要性が高まっています。

クロスボーダー決済支援企業Airwallexも、KYCを重視しており、ルールベース分析とNLP(自然言語処理)を駆使して顧客の取引相手を精査していました。具体的には、取引相手のウェブサイトを精査することで、取引相手の本人性、事業内容の誠実性、および提供する製品・サービスの合法性とAirwallexの利用規約への準拠を確認していました。しかし、この方法では誤検知アラートが頻発するという課題がありました。

取り組み内容

Airwallexは、大規模生成AI言語モデルを導入し、KYC評価プロセスの革新に取り組みました。

生成AIを活用することで、KYC診断の精度が上がり、例えば、取引相手のウェブサイト分析において、「ミリタリースタイル」のジャケットと禁止された軍事用品、「シャンパン色」のドレスと実際のシャンパン、スマートフォンアクセサリと違法販売されている実機など、紛らわしい商品の区別がより正確になりました。

成果

生成AI実装の結果、KYCデューデリジェンスフェーズでの誤検知アラートが50%削減され、KYCプロセス全体の処理速度が20%向上したと報告されています。

<参考情報>

Citi Group:生成AIを活用した規制コンプライアンスの効率化

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紹介企業Citi Group
企業概要シティグループ(Citi Group)は、アメリカの多国籍金融サービス企業で、商業銀行業務や投資銀行業務、資産管理、証券取引、クレジットカードなど、幅広い金融サービスを提供しています
事例カテゴリコーポレート×生成AI
事例テーマ生成AIを活用した規制コンプライアンスの効率化

背景

銀行業界は厳格な規制下にあり、その要件は頻繁に更新されます。増加の一途を辿る規制変更に対応するには、新要件の解釈と既存の規制基準との整合性確保に膨大な労力を要し、銀行に多大な負担を強いています。

Citiの公表した記事によれば、過去半世紀で米国連邦規則集における制限用語数は40万語から100万語以上へと急増し、金融サービス業界では企業の3分の1が年間予算の5%以上を規制遵守に充てているとされています。この高額なコストの主因は、現行のコンプライアンス業務が手作業中心であること、そして規制の継続的な進化と複雑化にあります(例えば、米国では多様な金融商品に対し複数の規制当局が存在し、州レベルでの規制も存在します)。

規制コンプライアンス対応には専門的な判断が不可欠であり、銀行のコンプライアンスチームは変化に遅れまいと奔走することが常態化しています。これにより、新規制への適合が遅延し、市場参入の取り組みに支障をきたし、人為的ミスや罰金のリスクが増大する事態を招いています。

取り組み内容

Citigroupは、米国の新資本規制の影響評価に生成AIを活用しました。同行のリスクおよびコンプライアンスチームは、連邦規制当局が公表した1,089ページに及ぶ新資本規則を精査・要約するツールとして生成AIを採用しました。さらに、事業展開国の法規制を解析し、各管轄区域の規制への準拠を確認するため、大規模言語モデルの活用を検討しています。

成果

具体的な生産性向上の数値などは公開されていません。

<参考情報>

国内の金融機関における生成AI活用事例

国内事例

肥後銀行:生成AIチャットによる営業⇒本部間の問い合わせ対応自動化

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紹介企業肥後銀行
企業概要肥後銀行は、熊本県を拠点とする地方銀行で、九州フィナンシャルグループに属しています。
事例カテゴリオペレーション×生成AI
事例テーマ生成AIチャットボットによる営業⇒本部間の問い合わせ対応自動化

背景

国内銀行業界では、デジタル技術を活用した生産性向上が喫緊の課題となっています。Azure Open AIなど、セキュアな環境での生成AI活用が進展しつつある中で、金融機関においても生成AI活用が進んでいます。

肥後銀行も「肥後銀行DX計画」の一環として、2030年までにデジタル先進企業への変革を目指しており、生成AI活用を積極的に検討してきました。同行は、生成AIに関する深い知見を持ち、複数のAIモデルやシステムを統合できる「AI HUBプラットフォーム」を有する大手コンサルティング会社、アクセンチュアの支援を受けることを決め、生成AIの活用を進めてきました。

取り組み内容

2023年10月、肥後銀行は実証実験を開始しました。営業店および本部から200名の行員が参加し、以下の領域で生成AIの活用を試みました:

  • 情報収集(企業調査、市場調査等)
  • 企画書等の素案作成、アイデアの創出
  • 文章の校正/要約/翻訳
  • マクロやプログラム等のコード作成

その中でセキュリティ確保のため、以下の施策を実施しました

  • 生成AU利用マニュアルの制定と動画教材を用いた利用者教育を実施
  • 利用者のアクセスログを記録し定期モニタリングを実施

実証実験を経て、2024年4月に「生成AIチャットボット」の本格運用を開始しました。約400名の営業店および本部行員が、「営業店から本部等への銀行業務にかかる事務手続きの問い合わせ」に活用しています。このシステムは、行内ネットワークからクラウド上の事務マニュアル等を参照し、チャット形式で問い合わせに自動回答する仕組みです。

肥後銀行の行内GPT

成果

具体的な成果数値は未公表です。

肥後銀行以外にも、行員向け生成AIチャットボットを導入する銀行が増加しています。例えば、横浜銀行は「行内チャットGPT」を導入し、グループ会社の東日本銀行を含む約5000人の従業員に提供しています。このシステムは一般的な機能に加え、行内規定やマニュアルの照会機能を備えています。

横浜銀行の事例では、株式会社ラックのAI開発チームが支援し、マイクロソフト社のAzure OpenAIをプラットフォームとして採用しています。同行は、この「行内チャットGPT」導入により、文書作成時間が平均37%削減されると試算しています。これにより、従業員は新規業務開発や高度な業務により多くの時間を割くことが可能になると期待されています。

イオンフィナンシャルサービス:生成AIによるマーケティングデータ分析の民主化

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紹介企業イオンフィナンシャルサービス株式会社
企業概要イオンフィナンシャルサービス株式会社は、イオングループに属する金融サービス事業を展開する企業です。クレジットカードの発行や決済サービス、保険商品、資産運用など幅広い金融サービスを提供しています。イオンカードやイオン銀行などが有名です。
事例カテゴリ営業・顧客対応×生成AI
事例テーマ生成AIによるマーケティングデータ分析の民主化

背景

イオンフィナンシャルサービス株式会社は、クレジットカード事業の活性化と新規顧客獲得を目指し、リテールメディアを活用した広告展開を実施していました。しかし、効果的なメディア運用体制が整備されておらず、担当部署の業務時間の約4割が分析作業に費やされるなど、業務効率化が喫緊の課題となっていました。

取り組み内容

現在、同社ではクレジットカード事業における分析・広告配信業務、CRM 戦略策定に生成AI(Gemini や PaLM)などを活用し、効率化・高度化を推進しています。

利用者がチャット形式で分析したい内容を入力すると生成AI が SQL クエリを生成、BigQuery からデータを取得して、その結果を分析して要約したり、グラフなどでビジュアルに表示する仕組みを構築しています。また Google 広告ソリューションと組み合わせることで、従来のやり方ではリーチできなかった層へのアプローチを実現しています。

生成AIを活用したメディア分析ツール

成果

専任チームでも時間のかかる分析や効果検証を誰でも迅速に行える環境を整備し、約34%の工数削減を見込んでいます。また、専門知識を持たないユーザーでも、チャットインターフェースを通じて高度な分析が可能となり、組織全体のデータ活用能力が向上しています。

<参考情報>

福岡フィナンシャルグループ:生成AIを活用した融資稟議書作成の自動化

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紹介企業福岡フィナンシャルグループ
企業概要福岡フィナンシャルグループ(FFG)は、日本の九州地方を中心に展開する金融グループです。2007年に持ち株会社として設立され、福岡銀行、熊本銀行、親和銀行などの地方銀行を傘下に持っています。
事例カテゴリオペレーション×生成AI
事例テーマ生成AIを活用した融資稟議書作成の自動化

背景・課題

福岡フィナンシャルグループは、地域社会の持続可能性向上と働き方改革を目指し、AI技術の導入を積極的に検討しています。特に注目しているのが生成AIの業務への適用で、IBMをDXパートナーとして迎え、実用的なユースケースの開発に取り組んでいます。

この取り組みは「Day1」と「Day2」の2フェーズで進められています。Day1では「会話応答AI」の実用性を検証。約100名の本部職員にChatGPTを業務で試用させ、銀行業務での活用可能性を探った結果、その有効性が確認され、現在は全社的な展開段階に入っています。

Day2では、特定業務へのChatGPT組み込みを通じ、ミドル業務の効率化を目指す「ナレッジマイニングAI」の実証実験を行っています。その一環として、融資業務における稟議書作成支援AIの開発をIBMと共同で進めています。

取り組み内容

融資案件の検討は、「(1)情報収集・顧客折衝」「(2)店内協議」「(3)案件登録」「(4)添付資料作成」「(5)意見欄記入」「(6)稟議書回付」という流れで進められます。このうち(3)から(5)が稟議書作成のプロセスに当たります。

「(5)意見欄記入」では、担当行員が融資稟議書の意見欄に当該融資の申出経緯や資金使途、対応方針など6項目を専門知識に基づいて1,000字程度で記入します。案件の内容や担当により異なりますが、1件当たり30分から1時間程度の時間を要し、月に複数件の作成が必要となるため、多大な時間と労力が費やされています。この意見欄の記入時間を生成AIの活用によって削減することを目的に実証実験が行われました。

生成AIを活用した融資稟議書作成の自動化

実証実験では業務に即したプロトタイプを開発。融資先を入力すると、各種システムから財務データや営業情報を自動収集し、AIへの指示(プロンプト)を生成します。さらに、過去の類似案件の稟議書を参照する「グラウンディング」技術を採用し、高精度の文章生成を実現しています。

システムは最初にAIが第1版を作成し、それに対する修正指示を受けて第2版を生成します。例えば「数値情報を追加して具体性を高めてください」といった指示を与えることで、より詳細な第2版が作られます。

最終的には、AIが生成した原稿を行員が手作業で仕上げます。第1版と第2版の生成にそれぞれ約1分、行員による最終調整に10分程度を想定し、全体で12分程度での意見欄完成を目標としています。

横浜銀行による生成AIを活用した融資稟議書作成の自動化

成果

福岡フィナンシャルグループは、AIが生成した融資稟議書の評価検証も実施しました。検証の対象となったのは以下の4種類です:

  1. 生成AIが作成した第1版および第2版(生成AIのみ)
  2. 生成AI作成後に、行員が手作業で最終化した版(生成AI+行員最終化)
  3. 生成AIを使わずに行員が従来通り手作業で作成した版(行員が全て作成版)
  4. 過去に実際の融資案件で作成された稟議書(実際の稟議書)

これらの稟議書は、作成者を伏せた状態で融資業務の担当者によって評価されました。

評価は記載文章の品質と必要項目の網羅性を軸に行われ、結果として「生成AI+行員最終化版」が最も品質と網羅性が高いという評価を得ました。

生成AIによる融資稟議書の評価結果

融資稟議書作成における生成AI活用の他行取り組み

福岡フィナンシャルグループの取り組みに加え、他の地方銀行も融資稟議書作成への生成AI導入を積極的に進めています。

宮崎銀行の事例

宮崎銀行では、生成AIと行内の営業支援システムを連携させるアプローチにより、企業の事業内容、業績データ、返済能力などの情報を自動的に分析し、融資判断に必要な稟議書を作成する取り組みを行っています。技術面では、マイクロソフトの「Azure OpenAI」を採用し、専用のクラウド環境を構築しています。この導入により、従来40分程度要していた稟議書作成が2〜3分で完了するようになり、驚異的な95%の時間短縮を実現したと報告されています。

群馬銀行の事例

群馬銀行も、フューチャーアーキテクトと協力して、融資業務における生成AI活用の実証実験を2024年6月から開始しています。

クレジットエンジン・グループ:生成AIを活用した債権回収の効率化

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紹介企業クレジットエンジン・グループ
企業概要クレジットエンジンは2018年設立のフィンテック企業で、金融機関向けオンライン融資管理システム「CEオンラインレンディングプラットフォーム」の運営を主軸事業としています。
事例カテゴリオペレーション×生成AI
事例テーマ生成AIを活用した債権回収の効率化

背景・課題

クレジットエンジンはデジタル債権管理回収システム「CE Collection」の提供を通じ、債権管理回収のデジタル化を進めてきました。一方で、回収領域における債務者からの問い合わせ業務、特に返済/支払い相談業務の品質向上及び業務効率化は大きな課題となっていました。

取り組み内容

自社の債権回収システムに生成AIを活用して、延滞債権/支払に特化した督促交渉AI機能を開発し、実証実験を行っています。自社システム内の債務者とのチャット機能で督促のやり取り(返済や支払いに関する質問や相談、各種ヒアリングの実施、連絡約束や入金約束の取得)を自動化するとしています。

提供方法の第一弾として「CE Collection」のチャット機能に組み込むことを予定しており、生成AIが作成した回答をオペレーターが確認してから返信するsuggestion機能も提供します。

まずは自社システム内の債務者とのチャット機能で督促のやり取りを自動化し、精度を高めたうえで書来的には外販も検討しているとしています。

成果

具体的な成果はまだ未公開となっているものの、事前に行われた社内テストでは、90%以上の業務効率化を達成したと報告されています。

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