【製薬DX】国内外の製薬企業における成功事例を徹底調査
製薬業界におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)は、今や避けて通れない経営課題です。
本記事では、国内外の製薬会社におけるDXの成功事例を紹介します。
AI創薬やバーチャル治験/DCT(Decentralized Clinical Trial)など、革新的な取り組みとその成果を探り、成功のポイントをまとめているので、自社でDXを推進する際やクライアント企業へ助言・提案をする際に、ぜひ参考にしてください。
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製薬業界におけるDXとは?
製薬業界におけるDXは、「バリューチェーンの高度化・効率化」と「ペイシェントジャーニー全体での価値提供(Beyond-the-pill)」の2つの観点で捉えることができます。
バリューチェーンの高度化・効率化は、「研究・非臨床試験」、「治験・承認取得」、「生産」、「営業・マーケティング」の4つの領域に分類されます。各領域における代表的なDXテーマは以下の通りです。
<バリューチェーンの高度化・効率化>
AI創薬
薬効が期待できる化合物の予測・設計など、AIを活用して新薬開発を効率化・加速化することで、研究開発の期間短縮とコスト削減を図ります。
RWD(リアルワールドデータ)活用
医療現場で収集された実際の患者データを創薬プロセスに活用し、新薬の有効性や安全性をより正確に評価します。
バーチャル治験・DCT(分散型臨床試験)
ウェアラブルデバイスやアプリなどを用いて、被験者の募集・説明・同意取得から、服薬指導、症状のモニタリング、データ収集までを行うことで、被験者が自宅から臨床試験に参加できる仕組みを構築し、被験者の利便性向上や、臨床試験期間の短縮・臨床試験コストの削減を実現します。
デジタルプラント
IoTセンサーやカメラなどで製造設備や原材料、製品の状態を常時モニタリングし、AIによる解析でリアルタイムに品質管理や工程改善を行うなど、製薬工場にデジタル技術を導入し、生産プロセスの効率化・最適化を図ります。
MR活動のデジタル化
医療従事者向けウェブサイトを通じた情報提供など、オンラインチャネルを通じてMR活動をおこなうことで、医療従事者の利便性向上や情報提供の効率化・コスト削減を実現します。
Value-Based-Pricing
医薬品の価格を、その医薬品がもたらす価値(臨床的効果や患者のQOLの改善度合い)に基づいて設定します。
ペイシェントジャーニー全体での価値提供(Beyond-the-pill)は、「未病・予防」、「検査・診断」、「治療(投薬)」、「予後」の四つの領域に分類されます。この中で、代表的なDXテーマとして以下のような取り組みが挙げられます。
<ペイシェントジャーニー全体での価値提供(Beyond-the-pill)>
ヘルスケアアプリ
運動支援や食事管理アプリなど、未病・健康増進に貢献するサービスを提供します。
DTCゲノム診断(Direct-To-Consumer)
消費者が医療機関を介さずに、検査キットなどを用いて、自身の遺伝的特徴を調べられるサービスを提供します。
AI問診・画像診断
患者の症状や病歴などの情報をもとに、AIが可能性のある疾患を提示したり、適切な医療機関への受診を推奨したりする「AI問診」、CT画像などをAIが解析し、疾患の検出や重症度の評価を行うことで、医療従事者の負担軽減や診断精度向上が期待できる「AI画像診断」などのツールを提供します
オンライン服薬管理
IoTデバイスやアプリを通じて、患者の服薬状況や副作用を遠隔で管理することで、服薬アドヒアランスの向上や副作用の早期発見を実現するサービスを提供します。
DTx(デジタルセラピューティクス)
個人のスマートフォンなどにダウンロードして利用し、主に個人の生活習慣や行動に変化を生じさせることにより、治療効果をもたらすソフトウェア・アプリ(薬事承認が必要)を提供します。
患者向けポータル
医療情報や治療に関するリソースへのアクセスや、医療従事者や他の患者とコミュニケーションを図ることが可能となる、患者向けのオンラインプラットフォームです。
AI予後予測
患者の病歴、症状、検査結果などの情報を使用して、AIが将来の状態や結果を推測することで、治療計画や介入方法を最適化できます。
製薬会社がDXに取り組む背景
製薬業界では、近年の「創薬難易度の高まり」により、従来のビジネスモデルが厳しい局面に直面しています。このような環境下で、製薬企業はDXに注力することで、収益性の改善や新たな価値提供を目指しています。
製薬メーカーの研究開発費は年々増加し、2020年の日米欧中の研究開発費総額は、1990年の約6.9倍に達しています。しかし、2018年~2022年の新薬の創出数は、2000年代前半の約2.5倍程度にとどまり、研究開発費の伸びに見合った成果が得られていません。
この要因として、創薬ターゲットの枯渇による開発の難化が挙げられます。医薬品が作用する生体内の分子の大半が既に研究し尽くされており、残されているのは高難易度の創薬ターゲットのみです。その結果、新薬開発の成功確率が低下しています。
厚生労働省の資料によると、2000〜2004年の新薬開発成功率は約1万3,000件に1件でしたが、2015〜2019年には約2万3,000件に1件まで下がっています。わずか20年で成功率は半減しました。
加えて、社会的な医療費抑制の必要性から薬価も下落傾向にあり、製薬企業の収益性に影響を与えています。
このような厳しい環境下で、製薬企業はDXを活用して「バリューチェーンの高度化・効率化」による収益性改善や、「ペイシェントジャーニー全体での価値提供(Beyond-the-pill)」による自社医薬品の選択率・継続率の向上、そして新たな収益源の確立を目指しています。
製薬業界におけるDXの成功事例
「AI創薬」の成功事例:中外製薬
大手製薬会社「中外製薬」が、DXを推進するための人材強化・組織風土醸成に成功し、AI創薬などのDXで実績を上げている事例を紹介します。
DXテーマ | AI創薬 |
---|---|
DXの狙い | バリューチェーンの高度化・効率化 |
対象領域 | 研究・非臨床試験 |
紹介企業 | 中外製薬 |
背景
近年、医薬品のR&D生産性は年々低下傾向にあります。この状況下において、中外製薬も他社と同様に、”デジタル”を活用した創薬への取り組みの必要性が高まっていました。
中外製薬は2019年、従来のデジタル化とは一線を画したデジタルトランスフォーメーションに向けて、経営資源を集中的に投下する方針を定めました。そして、2030年までの「CHUGAI DIGITAL VISION 2030」とそのロードマップを策定し、「デジタルを活用した革新的な新薬創出」の実現を基本戦略としました。
取り組み内容
中外製薬は、「CHUGAI DIGITAL VISION 2030」を掲げ、創薬プロセスへのAI活用を進めてきました。
中外製薬のAI創薬の例:
- AI技術を用いて抗体医薬品の分子構造を最適化することにより、より高い治療効果が期待できる開発候補抗体を効率的に選定
- 低分子・中分子化合物の分子設計やスクリーニング(大量の化合物から目的の性質を持つ化合物を選び出すこと)の効率化にAIを活用し、新薬開発プロセスの最適化
- 薬剤の投与実験における細胞や臓器の計測・判定作業を、AIを用いた画像解析技術で自動化することで、研究開発のスピードアップを実現
- 膨大な数の研究論文をText mining AIで解析し、研究動向のパターンや関連性を可視化することで、新たな創薬ターゲットや革新的なアイデアの発見を促進
特に、中外製薬が独自に構築したAI技術のMALEXA(Machine Learning x Antibody)は、抗体医薬品の創薬プロセスを変革しました。
抗体/抗体医薬品とは? (クリックして開く)
抗体とは、体内に入ったウイルスや細菌を構成するタンパク質などの分子(抗原)に結合して無力化・除去する分子のこと。体内の異常な細胞やタンパク質をより効果的に狙えるよう人工的に創って製品化したものが抗体医薬品という。
抗体は約20種類のアミノ酸を並べた配列から構成されており、抗体医薬品の創薬では、この配列パターンを変えることで、目的とする効果を持つ抗体を開発します。しかし、配列パターンは膨大に存在し、配列に含まれるアミノ酸を一つ変えるだけでも性質が大きく変わることがあるため、どの配列が薬剤として望ましい特性・品質基準をクリアするのかを予測することは非常に難しいのです。
従来の創薬プロセスでは、研究員が経験と勘に基づいて抗体配列パターンを考えて作製し、大量の実験で特性を確かめるという手法がとられていました。
属人的で大量の時間・コストを要する従来の創薬プロセスに対して、中外製薬が開発したMALEXA(マレキサ)は、AIを用いることで抗体配列パターンを最適化するスピード・精度を向上させました。MALEXAは、大量のアミノ酸配列データをパターン学習しており、膨大な量の抗体配列パターンを自動で作成し、特性を予測・評価することで、最適な抗体配列パターンを短時間で見つけ出すことを可能にしたのです。
成果
MALEXAを活用することにより、研究スピードの向上だけでなく、複数の創薬プロジェクトにおいて、研究員が考えるよりも優れた結合強度を持つ抗体配列パターンの取得に成功しています。また、MALEXAを利用することで、結合強度以外の様々な要素においても最適な配列パターンが提案されていることが確認されています。
さらに、MALEXAが提案するアミノ酸配列が、既存の抗体と比較して標的抗原に対して1,800倍以上の結合強度を示す抗体であることが立証された論文が、Nature Researchが発行する世界最大の総合科学オンライン雑誌「Scientific Reports」に掲載され、革新的な取り組みとして紹介されました。
取り組みのポイント・工夫
中外製薬のAI創薬における成功は、単にAI創薬に留まらず、以下で説明する「改革のサイクル」を回しながら、AI創薬を含むDXを”全社ごと化”し、会社としてDXで成果を上げるための土壌を築いてきたことがポイントとなっています。
中外製薬のDXにおける「改革のサイクル」
- トップがリーダーシップを発揮し、“ビジョン”と“戦略”を示す
- 経営トップのコミットメントの下、推進体制を確立する
- “全社”で人材強化と組織風土改革に取り組む
- フラッグシップとなるプロジェクトを立ち上げ、成果を出す
- 実績を積極的に社外発信する
1) トップがリーダーシップを発揮し、“ビジョン”と“戦略”を示す
中外製薬は、2019年に経営陣主導でCHUGAI DIGITAL VISION 2030を策定し、「デジタル技術によって、中外製薬のビジネスを革新し、社会を変えるヘルスケアソリューションを提供するトップイノベーターになる」というビジョンを掲げました。そして、ビジョン実現に向けた戦略として、「デジタルを活用した革新的な新薬の創出」、「全てのバリューチェーンの効率化」、「デジタル基盤の強化」の3つの基本戦略を策定しました。
興味深いのは、戦略ロードマップにおいて、「デジタル基盤の強化」に最初に取り組む方針が示されていることです。製薬におけるDXの中心はAI創薬ですが、最初に取り組むテーマとしては難易度が高く、まずは比較的取り組みやすいITインフラ基盤の整備に着手したと考えられます。
一方で、最初にクラウド化やサイバーセキュリティの強化を進めたことで、AI創薬に不可欠なビッグデータ活用や社外パートナーとの連携などにつながり、DXの取り組みを加速させるための布石となっています。
2) 経営トップのコミットメントの下、推進体制を確立する
中外製薬は、意思決定会議体である「デジタル戦略委員会」、社外から招へいしたリーダー率いるDX部門、各事業本部の窓口および推進役を担う「DXリーダー」からなる、強力な推進体制を構築しました。
意思決定会議体である「デジタル戦略委員会」は、毎月1回、経営陣および全部門のトップが参画し、デジタル・ITの戦略・計画・投資案件に関して機能横断的な審議・調整を行う会議体であり、トップマネジメントの強いコミットメントが見られます。
全社のDXを推進していく実務部隊としては、全社デジタル施策の管理や人材育成などを担う「デジタル戦略推進部」と、従来の情報システム部門の機能を持つ「ITソリューション部」が立ち上げられ、IBM出身のリーダーがそれらの部門を率いました。(2022年に、2部門を統括するユニットとして、デジタルトランスフォーメーションユニットが新設されています)
また、各事業本部やユニットとの連携を促進するために、事業本部・ユニットごとに、DXへの意識が強い部長クラスの人材を選んで、「DXリーダー」という役割を与えています。「DXリーダー」は自部門のビジョンを策定し、全社DX部門と連携しながら、DXの取り組みを推進する役割を担いました。なお、中外製薬の事業本部は、複数の事業部で構成されていますが、「DXリーダー」は事業本部ごとに1人設置しており、責任と役割を明確化することで、取り組みスピードを加速していると考えられます。
3) “全社”で人材強化と組織風土改革に取り組む
中外製薬は、AI創薬などのDXを推進するにあたり、緻密に設計された全社的な「人材強化施策」と社員の自主性を促進するボトムアップ型の「アイデア創出・インキュベーションの仕組み」によって、組織風土を改革してきました。
中外製薬は、人材強化を進めるにあたり、最初に必要な人材とスキルセットを定義したうえで、全社における現状を可視化しています。そして、目指す姿との乖離を把握したうえで、優先的に強化すべき人材要件を決め、バックキャストで強化に取り組んでいます。
中外製薬は、専門人材を迅速に強化すべく、社外人材の採用も行いつつ、一般社員やサポート人材も含めて、DXが必要な理由やクラウド・AIなどの用語を理解している状態にすることを重視し、全社的に社内人材の育成にも注力しています。2021年から実施されている人材強化施策「CHUGAI DIGITAL ACADEMY」では、スタッフ層、マネージャー層、経営層のレイヤーごとに、複数のプログラムが用意されています。
中外製薬は、当面の方針として、デジタルプロジェクトを企画・管理・推進できる「デジタルプロジェクトリーダー」とビジネス上の課題/ニーズを理解し、モデル構築や統計分析に落とし込める「データサイエンティスト」を優先育成職種としており、スタッフ層向けにOff-JTとOJTを組み合わせた9か月間の育成プログラムを、年間3回開催しています。
2020年に始めた、アイデア創出・インキュベーションの仕組みである「デジタルイノベーションラボ」では、全社員から、デジタルを活用した既存業務の効率化・価値向上や新たな事業創造に関するアイデアを募集し、PoCの実施や本番開発・展開を行っています。
全部門・個人がアイデアを提案可能で、定量的な投資対効果よりも、先進性などの基準によって、アイデアを迅速に企画・PoC段階へと移行する仕組みとなっています。実際、開始から3年間で450件以上のアイデアの応募があり、80件のPoCを推進し、20を超える案件が本番開発に進んでいます。
多くのアイデアが提案され、PoC、本番開発に進んでいる状況を見ることで、さらに社員が手を挙げやすくなり、組織風土改革につながっていると考えられます。
4) フラッグシップとなるプロジェクトを立ち上げ、成果を出す
中外製薬では、デジタル部門が全社のハブとなりながら、各事業部の温度感や状況を正しく理解し、MR担当者の営業活動に対するデジタル支援やRPA による業務生産性の向上などのプロジェクトを立ち上げ、成果を出してきました。
例えば、RPAの取り組みでは当初は2023年までに累計で10万時間の業務量削減を目指していましたが、2022年末時点で15万時間の業務削減を達成するなど、着実に成果を上げています。
5) 実績を積極的に社外発信する
中外製薬は、徹底的な社外発信を通じて、社員の意識を変えていました。DXへの取り組みを紹介する特設Webページの開設、社員インタビュー形式のnoteの記事、「CHUGAI DIGITAL」という象徴的なロゴやコンセプトムービーの製作、プレスリリースの積極的な発信、「CHUGAI DIGITAL DAY」という自社DXイベントの開催など、多岐にわたる外部発信施策を実施しています。
社外のデジタル人材やパートナー企業に知ってもらい、採用の人材プールや協業先を広げることに加えて、DXの取り組みがメディアに取り上げられ、社員がそういったメディアの記事を見ることによって、“自分も何かやらなければ”という意識を持つことも企図しています。
<参考情報>
「バーチャル治験・DCT(分散型臨床試験)」の成功事例:アストラゼネカ
英国の製薬会社「アストラゼネカ」が、バーチャル治験・DCT(分散型臨床試験)を推進し、患者中心の臨床試験を実現している事例を紹介します。
DXテーマ | バーチャル治験・DCT(分散型臨床試験) |
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DXの狙い | バリューチェーンの高度化・効率化 |
対象領域 | 治験・承認取得 |
紹介企業 | アストラゼネカ |
背景
製薬会社にとって、臨床試験は新薬の開発に必要不可欠です。しかし、適格な患者のうち、実際に臨床試験へ参加するのはわずか3〜5%にとどまっています。
アストラゼネカ社は、9か国300名を超える患者や医療従事者を対象に定性調査を実施し、臨床試験への参加を阻む障壁を探りました。その結果、患者は自宅から臨床試験へ参加することを好んでいることが明らかになりました。臨床試験では、患者は基本的に医療機関に直接足を運ぶ必要があり、移動時間やクリニックでの待ち時間、仕事を休む必要性などが負担となり、臨床試験への参加のハードルになっていました。また、臨床試験を担当する医療従事者も、臨床試験に時間を割くよりも、目の前の患者の治療に集中することを優先したいと考えていることが判明しました。
そのような状況の中、COVID-19によるパンデミックが発生し、臨床試験の形態を変える必要性が高まったことで、デジタルソリューションの活用が急速に検討され始めました
取り組み内容
アストラゼネカ社は、臨床試験へのデジタルソリューションの活用を検討するにあたり、呼吸器疾患や心臓血管疾患などの研究に関する約100の臨床試験プロトコルや自社の臨床試験データを精査しました。
その結果、試験評価データの約70〜80%が、デバイスを使用して患者の自宅で収集できることが確認されました。アストラゼネカ社は、この結果を踏まえ、デジタル医療ソリューションやAIツールを用いたDCT(Decentralized Clinical Trial)の実現に注力する方向性を決定しました。
DCTとは? (クリックして開く)
分散型臨床試験(Decentralized Clinical Trial=DCT)は、デジタル技術などを活用することで、臨床試験の⼿順の⼀部、またはすべてを、患者の自宅や近隣のクリニックなど臨床試験を実施する医療機関ではない場所で実施する手法のこと。
アストラゼネカ社は、患者用のモバイルアプリと臨床試験チーム向けのWebポータルを統合した臨床試験支援ツールである「Unify」を2020年にリリースしました。
Unifyを利用することで、患者はアプリで以下のような機能を利用できます。
- リマインダー機能(投薬など)
- デバイスデータの収集・提供
- 自宅への薬剤の配送手配
- アンケート回答
- 通院予約
- 関連する医療記事の閲覧
また、医療従事者などの臨床試験チームは、Webポータルを通じて、臨床試験ドキュメントの管理やリアルタイムのイベントトラッキング・患者からの報告確認などの機能を利用できます。
さらに、アストラゼネカ社は、規制当局と協力し、心臓血管試験における主要な結果イベントの自動検出、レポート、評価を支援するAIソリューション「AIDA (Automatic Identification Detection Adjudication)」を開発しています。
2023年には、アストラゼネカ社は、UnifyやAIDAなどの臨床試験デジタルソリューションを製薬会社やCROなどに提供する新規事業を営む会社として、Evinova(エヴィノバ)を立ち上げました。すでに、世界的なCRO企業であるParexelとFortreaと、彼らが持つ幅広い顧客ベースにEvinovaを提供する契約を締結しています。また、業界での導入を加速し、デジタル製品の世界的な展開を維持および拡大するために、Evinovaはアクセンチュアおよびアマゾンウェブサービスとも協力しています。
成果
Unifyはすでに世界40か国、80言語に対応し、世界中の臨床試験に導入されています。
Unifyによって、治療期間や来院回数の削減などの患者側のメリット、臨床試験コストの削減などの臨床試験チーム側のメリットがもたらされる可能性が確認されています。例えば、慢性閉塞性肺疾患の患者を対象とした臨床試験では、従来は医療施設で呼吸検査によって患者の肺機能を測定することが求められていました。しかし、Unifyを使用すると、自宅でも同じ品質で肺活量測定をモニタリングできるようになります。その結果、治療期間と来院回数が50%削減され、コストが32%削減されると見込まれています。
取り組みのポイント・工夫
アストラゼネカ社のDCTの取り組みにおけるポイントは、「患者体験を重視する」というコンセプトが明確に中心にあることです。
アストラゼネカ社は、世界中から集めた数千の患者のコメントをもとに、最適な患者体験を実現するツールとしてUnifyを開発しました。そして、開発後も患者や医療従事者のフィードバックをもとに改善を重ねています。
さらに、アストラゼネカ社は、Unifyの開発と合わせて、「Merlin」と呼ばれる臨床試験計画ソリューションを開発しています。Merlinは、臨床試験デザインと、臨床試験内の来院や処置の負担に関する患者からのフィードバックに基づいて、その臨床試験で想定される患者エクスペリエンス指数を推定するためのスコアを自動算出します。新しい臨床試験デザインを、過去に行われた類似の臨床試験デザインと比較しながら、患者エクスペリエンスを向上させることができる、まさに患者体験を重視したソリューションです。
このように、患者中心の臨床試験を志向しているからこそ、DCTの取り組みを推進できていると考えられます。
<参考情報>
以上が、「製薬業界におけるDX」の成功事例となります。
各社の取り組みのポイントや工夫については、製薬業界に限らず、他業界でも参考になる点が多いです。
是非、自社やクライアントがDXに取り組む際に、参考にしてみてください。