大手コンサルティングファームでキャリアをスタートし、その後上場スタートアップの事業責任者、外資系SaaS企業の管理職を経て、再びコンサルティング業界に戻った方へのインタビュー。事業会社でのやりがいや、そこで活きたコンサルティングでの経験・スキル。そして今、事業会社での実務経験は、どのようにコンサルティングの現場で活きているのか。自身の多様な経験を踏まえながら、コンサルタントと事業会社、双方を経験したキャリアについて語っていただきました。
Interviewee Profile
大手コンサルティングファームでマネージャーまで務めた後、上場スタートアップの新規事業責任者、外資系SaaS企業の管理職を歴任。多様な実務経験を経て、現在は再び大手コンサルティングファームにて活躍。
コンサルから事業会社、そして再びコンサルへ
-簡単にご経歴を教えてください
大手コンサルティングファームでキャリアをスタートし、約7年間在籍して、マネージャーまで務めました。クロスボーダーの戦略立案から実行支援まで、幅広い案件に携わることができ、非常に充実した日々を過ごすことができました。
その後、上場スタートアップに転身し、新規事業の責任者を務めました。新規事業の黒字化など、具体的な成果を上げることができたタイミングで、当時SaaS全盛の時代だったこともあり、外資系のSaaS企業に転職しました。外資系SaaSでは、カスタマーサクセス部門の責任者を務めました。
外資系SaaS企業でも一定の実績を残した後、これまでの事業開発経験とSaaS企業での経験を活かせば、コンサルタントとしてより深い価値をクライアントに提供できるのではないかと考え、コンサルティング業界に戻ることを決意しました。実際、事業会社での経験が活きており、以前よりもさらにやりがいを感じながら仕事に取り組めています。
結婚を機にワークライフバランスを見直し、事業会社へ
-コンサルティングファームから上場スタートアップへ転職した理由を教えてください
主な理由はライフステージの変化でした。当時、マネージャーとして非常に忙しい日々を送っていましたが、結婚を機にワークライフバランスの見直しを考えるようになりました。そんな折、上場スタートアップから事業責任者のポジションをオファーいただき、コンサルティングファームでの経験を活かせる点や、業務内容の面白さに魅力を感じて転職を決意しました。
-事業会社とコンサルでは、マネジメントの仕方などが異なる部分もあると思いますが、苦労したことはありますか?
マネジメントレポートに関しては、コンサルティング時代とほとんど変わらなかったと感じています。役員など上位職へのコミュニケーションや働きかけ方についても、コンサルティング時代の経験がそのまま活かせました。
一方で、オペレーションマネジメントには苦労しました。特にプロダクト開発においては、たとえばクリエイティブ職の方々とFigmaなどのデザインツールを介してコミュニケーションを取りながら進めていく必要があり、これはコンサルティングとは大きく異なるカルチャーでした。最初は使用するツール自体への習熟にも時間を要しました。
また、会社全体のカルチャーが非常にフラットだったことも大きな違いでした。私自身が比較的縦社会の組織やチームの中でキャリアを積んできたため、このフラットな文化に適応するまでには半年程度の時間を要したように思います。
事業で成果をあげる喜びこそが、事業会社で働く醍醐味
-上場スタートアップ時代にやりがいを感じたことを教えてください。
最も印象に残っているのは、自分が立ち上げた事業が黒字化を達成したときです。事業成長に向けて様々な施策を講じましたが、それらは必ずしもすべてが成功したわけではありません。しかし、PDCAサイクルを素早く回していくことで事業が着実に成長していく過程は、非常に面白い経験でした。
コンサルタントの立場でも似たようなことはできるかもしれませんが、事業責任者として直接事業に携わることで得られる手触り感やスピード感は、全く異なるものでした。
-外資SaaS企業ではどのようなやりがいを感じましたか?
事業会社ならではの嬉しさを感じたのは、やはり結果が出たときですね。もちろんコンサルでも営業が当たるようになってセールスの成果が出てくると嬉しいと思いますが、コンサルティングは結局のところ個の能力の足し算や掛け算で、デリバリーコスト以上の価値を感じる提案ストーリーを描けるかどうかだと考えています。
一方で事業では、部門やチームとしていかに効率的な組織の神経系統を整えるかという点が重要になってきます。そのための施策は、チームリーダーの選定や人材採用、他チームや他社との協力体制の構築など、選択肢が多岐にわたります。事業成長のために取り得る手段が多様にあることも、非常に面白い点だと感じています。
コンサル出身者は失敗を恐れないことが大切
-コンサル時代の経験やスキルが事業会社でどのように活きましたか?
コンサルティング時代で培った課題設定力、課題解決力、段取り力、そして資料作成能力など、あらゆるスキルを活かすことができたと思います。特にエグゼクティブとの合意形成において、コンサル出身という経験は非常に大きな武器になったと感じています。
私は、事業のアジリティを維持するためには、管理職自身がプレイヤーとしても優秀であることが実は重要な要素ではないかと考えています。例えば、誰かに指示して資料を作成してもらわずとも自分で手を動かせるのであれば、社内での合意形成をスムーズに推進でき、結果としてチームの意思決定スピードが向上します。
そういった観点から、コンサルでマネージャーまで経験した人材は、実務能力も高いため、事業会社でもアジリティの高いチームのマネジメントを担える可能性が高いと思います。ただし、中には評論家的な立場に留まってしまう人もいるので、事業会社での仕事の進め方にしっかりと適応していくことは必要不可欠です。
-事業会社に適応するために、コンサル出身者が意識すべきことは何でしょうか?
最も意識すべきは、失敗を恐れないことだと考えています。コンサルティングファームでは、クライアントから高額なフィーをいただいているため、基本的に失敗は許されません。
一方、事業会社では、ある程度の失敗は許容されると考えています。もちろん、組織や職種によっては絶対に失敗が許されないケースもありますが、特に事業開発においては、失敗を経験しながらPDCAを高速で回していくことで事業を成長させていきます。そのため、失敗を過度に恐れず、挑戦していく姿勢が重要になってきます。
事業会社経験を活かしたコンサルティング
-再度コンサル業界に戻ってきて、事業会社での経験が活きていると感じることはありますか?
事業会社の実態や感覚を理解できていることは、非常に大きなアドバンテージだと感じています。
また、コンサルティング業界の変遷を振り返ると、約10年前はインダストリーでの専門性、5年前はインダストリーとオファリングの掛け合わせ、2~3年前はそこにアライアンスが加わり、そして現在はインダストリー、オファリング、マルチアライアンスを組み合わせて価値を提供する時代になってきていると考えています。
このような環境下では、SaaSへの深い理解やソリューション企業の動向を読み解いた上で、効果的なアライアンスを構築できるかが重要になってきます。その意味で、SaaS企業での経験は非常に有益だと実感しています。
-他に事業会社経験がコンサルで活きている部分はありますか?
やはり同じ釜の飯を食わないと分からない空気感があると思います。
また、実際に事業会社を経験したことへの自信もあります。
さらに、何が実際に実行可能なのかという判断もより的確にできるようになりました。現代において純粋な戦略コンサルティングの需要は、M&A関連の案件を除いてそれほど多くないと考えています。長期戦略を描く場合でも、それを各部署にどのように落とし込むかが重要で、戦略とオペレーションは切り離せない関係にあります。そういった観点から、施策の実行可能性を現実的に判断できることは、大きなアドバンテージになっていると感じています。
コンサルは軸のあるダイバーシティを実現できる場所
-今後のキャリアについてどのように考えていますか?
私自身、コンサルティングという仕事は本当に楽しいと感じています。成長したいと思っている人が集まっていますし、実際に成長できる環境でもあります。そのため、このコンサルティングという領域を、改めて極めていきたいと考えています。
-コンサルティングの面白さは、事業会社も色々経験して、改めて思ったところなのでしょうか?
そうですね。
また、私はキャリアにおけるダイバーシティが非常に重要だと考えています。多様な経験を積むことは単純に楽しいですし、非連続的な成長の機会も得られると思います。
ただし、重要なのは軸のあるダイバーシティであることです。コンサルタントの場合、論理的思考力や課題解決力といった基礎的な能力が軸として備わりやすいです。そこに業界やオファリングの知識が加わることで、さらに強みとなります。コンサルティングファームの環境は、部署移動なども活発ですし、軸のあるダイバーシティを実現でき、自己成長も続けられる場だと実感しています。
最後に、ポストコンサルなど今後のキャリアに悩む若手コンサルタントへのアドバイスをいただけますか?
私が最も重要だと考えるのは、”得意なこと”と”好きなこと”を掛け合わせることです。得意なことを活かせる職種でないと意味がないですし、好きなことでないと続かないですよね。
そしてもう一つ、人とのつながりも大切にすべきです。コンサルティングファームでの同僚関係はもちろん、友人関係も含めた人間関係を大切にすることをおすすめします。良い転職機会というのは、エージェントからの紹介ではなく、多くの場合、信頼できる人間関係から生まれてきます。ですから、人とのつながりは大切に育てていくべきだと考えています。