アグリテインメントという挑戦 ─ ITコンサルから地方創生の最前線へ

コンサルティングファームから”起業”という選択肢を選ぶ方は多く、皆様熱い想いや志を持って事業に取り組まれています。
本インタビュー企画では、コンサル出身の起業家に直撃し、コンサルティングファーム時代のキャリアからひも解いていきます。
今回インタビューしたのは、コンサルティングファームを経て、ノウタス株式会社を創業した
ノウタス株式会社取締役社長の佐々木 陸衣さん。
ノウタス株式会社は”アグリテインメント”をテーマに、農業×デジタルサービスの企画開発を行う2022年設立のスタートアップです。同社は「to A(Agri)農家向けサービス」「to B(Business)企業・自治体・省庁向けサービス」「to C(Consumer)消費者向けサービス」の3領域で様々なサービスを提供しています。
また、STARTO ENTERTAINMENT所属で、現役アイドルタレントの村上信五さんが兼業社員として参画していることでも
非常に注目を集めています!
岩手から東京の外資コンサルへ ─ 地方創生への想いが導いた転機

ノウタス株式会社 取締役社長 佐々木 陸衣(ささき みちえ):岩手の畜産農家。大手印刷会社のフルスタックエンジニアとして活躍。その後ITコンサルティングファームにて幅広い業種業界のシステム開発をリード。マイクロソフト認定プロフェッショナル。農林水産や地域の課題をテクノロジーで解決すべくノウタスを共同で設立。リモートワークを活用し、岩手の畜産の現場にも携わる。
-簡単にご経歴を教えてください。
地元岩手の国立大学で情報工学を専攻していたこともあって、大手印刷会社グループの情報システム会社に入社して、エンジニアとしてのキャリアをスタートさせました。地元に支店があったので、地元で就職することとなりました。
そこで3年ほど経験を積んだ後、東京へ上京し、外資系コンサルティングファームや新興のITコンサルティングファームでのキャリアを経て、ノウタス株式会社を現会長の髙橋と共同創業しました。
-上京して外資系コンサルティングファームに転職したきっかけは何だったのでしょうか?
将来的には地方創生に携わりたいという想いから、いずれは岩手で働くつもりでしたが、まずは岩手に貢献できる人材になるために、自己成長の機会を求めて上京を決意しました。
当時勤務していた会社では、エンジニアとして働いていましたが、終身雇用・年功序列の社風で、人とコミュニケーションを取る機会も限られており、成長スピードに物足りなさを感じていました。
そうした中で転職活動を始め、色々な会社から内定をいただいたのですが、外資系コンサルティングファームが一番得体が知れなくて選びました(笑)
-得体が知れない(笑) あえて未知の世界に飛び込んでいくことを選んだのですね。
当時、岩手県に住みながら東京の会社への転職活動をするのは非常に大変でした。オンライン面談のない時代だったので、仕事の合間を縫いながら、有休を取って東京に新幹線で行き、1日に数社の面接を受けて、その日のうちに岩手に戻るような生活でした。その当時、私もある開発プロジェクトのリードを担当していたため、本当に大変でした。そうした生活をする中で、私もスイッチが入っていたんでしょうね(笑)
ただ真面目な話をすると、今までやったことがない、全然イメージがつかないような仕事の方が成長できると考えました。他の内定先はITエンジニア職でのオファーが多かったのですが、今までやってきたことの延長線上でイメージできることをやっても、そんなに成長できる幅が大きくないんじゃないかなと思いました。
それに加えて、年功序列の会社にいたので、完全実力主義の外資系に惹かれた面もありました。
-転職のきっかけとなった、地方創生への想いはもともと持っていたのですか?
エンジニアとして働いていた当時は、「このままじゃいけないな」という漠然とした思いはありつつも、具体的にやりたいことは見つかっていませんでした。
しかし、自分と向き合い、”誰のために仕事をしたいか”を深く考える中で、地元への愛着が非常に強いことに気づいたんです。実家が農家だったこともあり、農家をはじめとする一次産業に携わる方々の仕事をITの力でより良くしたいという思いが芽生えました。そのために必要なスキルと経験を得るために転職を決意しました。
コンサルティングファーム2社で実力を磨き、着実にキャリアを築く
-エンジニアからコンサルタントに転職してどのような苦労がありましたか?
エンジニアとコンサルの考え方って割と真逆なんですよ。エンジニアは仕様通りに実装すること、そして仕様を膨らませないことが工数管理の観点で重要になります。そのため、いかに余計な仕事を断るかに頭を使っていたのですが、コンサルタントになると逆の立場になりました。お客様の様々な意見を聞いて要件を定義する側、システムを設計する側になったんです。
そうすると、”お客様にとって何が本当に必要なのか?”という思考が常に求められるようになり、最初はかなり戸惑いました。
-その後、別のITコンサルティングファームに転職されたのですよね?
はい、外資系コンサルティングファームで3年ほど経験を積んだ後に転職しました。理由はより上流工程に関わりたいという思いがあったからです。当時所属していた外資系コンサルティングファームは、大手外資系テック企業が出資していたこともあり、技術寄りの案件が多く、開発業務もかなり行っていました。そこで、より要件定義などの上流工程の案件に携われそうな新興のITコンサルティングファームに移りました。
-前職のコンサルティングファームではどのような案件を担当しましたか?
前職では希望通り要件定義の案件を担当したり、50~100名規模のプロジェクトでPMを担当したりしました。シニアコンサルタントのポジションで入社して、1年でマネージャーに昇格できたので、キャリアとしては順調に歩んでいたと思います。

構想から実現へ ─ かつてのPJ仲間と共に描いた農業×デジタルの未来図
-そうした中で起業という道を選んだ背景を教えてください。
最初は前職のITコンサルティングファームに長く居るつもりで、起業する気持ちは全くありませんでした。しかし、外資系コンサルファーム時代のプロジェクトで繋がりがあった髙橋と週末などに会って、今の会社のベースとなる「地方創生×ビジネス」の構想を考えていました。そうした中で、当時水面下で進めていた構想の一つが農林水産省の白書で取り上げられ、”これはいけるかも”と思ったんです。
そこで一気にアクセルを踏み込んで、起業という道を選びました。
-起業するに際して不安はありませんでしたか?
あまり不安はありませんでした。最悪会社がうまくいかなくなっても、コンサルティングなど何かしらで食べていける自信があったからかもしれません。
-起業されたノウタス株式会社について教えてください。
当社は農業×デジタルサービスの企画開発を通じて、人や企業と農業をつなげるサービスをつくりだし、人々の人生に農(ノウ)を足す(タス)会社です。
創業メンバーのほとんどは家族経営農家出身で、都会で働きながらも、後継者問題やデジタル化の遅れなど、実家を含む家族農業の課題に問題意識を持っていました。日本の農業経営体の96.4%は家族経営であり、この課題は決して我々の実家だけに留まりません。また、世界的にも「持続可能な農業」はSDGsの重要テーマとなっています。
当社は、他業界との積極的なオープンイノベーションを通じて、優れたデジタルサービスを家族農業向けに最適化し、農家の課題解決を支援しています。

“アグリテインメント”という新領域 ─ 農業にエンターテイメントを掛け合わせる挑戦
-具体的にはどのような事業を行っていますか?
当社は『アグリテインメント』というテーマを掲げています。これは農業(Agriculture)とエンターテインメント(Entertainment)を掛け合わせた造語です。例えば、大阪の高槻で当社が運営しているブドウ農園では、単に農園経営をするのではなく、シェアツリーやイベント開催など農業周辺のエンターテイメント領域まで提供しています。こうした事業をアグリテインメントと呼んでいます。
現在は、「to A(Agri)農家向けサービス」「to B(Business)企業・自治体・省庁向けサービス」「to C(Consumer)消費者向けサービス」の3つを事業の柱としています。
農家向けには、気象情報サービスや観光農園業務効率化ツールなどのデジタルソリューションで日常業務を支援し、キャッシュレス決済や新しい販売プラットフォームを通じて農家の経営力強化とファン作りをサポートしています。
企業・自治体向けには、異業種企業の農業参入支援や、農業を観光資源としたまちづくり、スマートシティや地域通貨のシステム構築など幅広いコンサルティングを提供することで、省庁、自治体、電力、金融機関など様々な業種とのコラボレーションを実現しています。
そして消費者向けには、自社ぶどう農園『パープルM』の運営をはじめ、果物狩り検索サイト『クダモノガリプラス』、文化放送との共同制作番組『ぶんか食堂』など、リアルとバーチャル両方で農業の楽しさとおいしさを直接お届けしています。
なお、自社ぶどう農園『パープルM』の事業管掌VPとして、現役アイドルタレントの村上信五が参画しています。自身のアイドル活動時のメンバーカラーである紫色をテーマに、ぶどうプロジェクト「パープルM」を兼業社員として企画推進してもらっています。

-佐々木さまは社長としてどのような役割を担っているのでしょうか?
会社の事業方針・戦略の決定や足元の資金管理は当然行っています。また、当社は営業部隊を持たないため、会食なども含めた営業活動も私自身が担当しています。ちなみに現在は地元の岩手に戻り、実家の畜産農家との兼業も行いながら、社長業をしています。
ITコンサルの経験が経営の武器に
-今の仕事において、コンサルティングファーム時代の経験が活きることはありますか?
農業×デジタルの事業をやっているので、ITコンサルで培った知識やスキルはほぼすべて活きていますね。特にプロジェクトマネジメントのスキルは本当に役立っています。会社の経営って、ゴールから逆算して、スケジュールを引いて、今やるべきことを考えて実行する…そういう繰り返しなんです。
それから、ドキュメント作成のスキルも活きていますし、人に伝えるプレゼンテーション力も大事ですね。あとは、会社を運営していると業務を効率化してコストを削減しないといけない場面が多いので、そういった部分では業務コンサルの経験も活きていると思います。
-今の仕事のやりがいは何でしょうか?
元々地方創生をしたい、地元に貢献したいという思いがあって、今は岩手に戻ってきているので、ある意味夢を達成している実感がありますね。母校の大学で講演をしたりもして、地元に貢献できているのもやりがいになっています。
-起業して苦労したことは?
エブリデイですよ(笑)。仕事内容的には経営者なので時間の融通がきくのは事実ですが、経営面の知識はあまり持ち合わせていなかったので。会社の舵取りの判断は常にキャッチアップしないといけないし、資金繰りも大変です。いろんな方に助けてもらいながら、何とかやっている状況です。
誰のために頑張れるのか?という想いの部分が大事
-最後にポストコンサルキャリアについてアドバイスやメッセージをお願いします
『想い』と『ツール』の2つが大事だと思います。ツールの部分はコンサル会社での仕事を通じて磨いている状況だと思いますが、想いの部分は自分自身と向き合う必要があるんじゃないでしょうか。次のキャリアを考える際は、誰のために頑張れるのか?という想いの部分から考えると良いかもしれません。

社名:ノウタス株式会社
設立:2022年04月
本社所在地:東京都港区南青山2-15-5 FARO青山
「Agri + Life = Fun!!」ノウタスは、世の中の優れた技術や人々を農に取り入れることにより(農に足す)、農の課題を解決する(農のたすけになる)ことを目指し、農家出身者や現役農家が集まって設立した会社です。「Win-WinよりもFun-Funに」を経営理念に活動しています。