【生成AI活用事例】国内外の製造業における事例を徹底解説

国内・海外の製造業における生成AI活用事例

生成AI(Generative AI)のビジネス活用が急速に進む中で、製造業(Manufacturing)においても具体的な活用事例が増えてきています。本記事では、国内外の製造業企業における生成AIの活用事例について、「背景・課題」「取り組み内容」「成果」を詳しく解説します。

目次

製造業における生成AI活用とは

製造業における生成AIの活用は、バリューチェーン全体にわたり様々な取り組みが進んでいます。多くの企業では、全社的にChat GPTなどの利用基盤を整備し、事務業務における資料作成や調査といった用途にとどまることが多いですが、先進的な製造業では自社データを効果的に活用し、業務レベルでの生産性向上に結びつけています。

製造業における生成AI活用
バリューチェーン生成AI活用方法効果事例
設計・開発ジェネレーティブ・デザイン
(仕様に合わせた製品デザインの自動生成)
生産性向上
技術文書のテキスト化によるA-ESモデル構築の加速
(画像やグラフの多い文書をデータ資産化)
生産性向上本田技研工業
調達・製造学習データ生成による品質管理システム構築の加速
(モデル学習に使う不良品画像の生成)
生産性向上Bosch
製造ラインの稼働状況に関する
解釈・報告(自然言語)の自動生成
生産性向上旭鉄工
販売・マーケティング複雑な個別見積対応業務の効率化
(非標準化の問い合わせから発注書を自動生成)
生産性向上GA Telesis
テキスト指示による3D製品モデルの背景自動生成
・リアルタイムレンダリング(広告等に活用)
生産性向上Dassault Systèmes
カスタマーサポート
アフターサービス
生成AIチャットによる提案・サポートで
製品利用体験を高度化
顧客体験向上GE Appliances
「話す機械」によるアフターサービス/保守業務の効率化生産性向上日立製作所
その他共有生成AIを活用したデータ活用の民主化
(自然言語指示に基づくSQLクエリの自動生成)
生産性向上日本特殊陶業

生成AI活用が製造業にもたらす変革:従来型AIとの本質的差異

近年のデジタル・トランスフォーメーション(DX)の潮流において、製造業界でのAI活用は顕著な進展を見せています。需要予測、異常検知、生産計画の最適化など、AI技術を駆使したスマートファクトリーの台頭が目立ちます。

このような背景下で、生成AIが製造業にもたらす変革の本質とは何でしょうか。生成AIと従来型AIには多岐にわたる相違点がありますが、製造業への影響という観点から、特に注目すべき点が二つあります:

  • 非構造化データの直接活用
  • 専門知識を持たない人材による利用可能性

非構造化データの直接活用

生成AIの特徴は、テキスト、画像、音声などの非構造化データを直接入力として処理できる点です。

従来型AIでは、データの構造化が分析・処理の前提条件であり、表形式データ等への事前の加工・整備が不可欠でした。しかし、製造業の技術資料の大半は非構造化形式で保存されています。そのため、DXの取り組みにおいても、データ整備に膨大な時間とコストを要し、進捗の妨げとなっていました。

一方、生成AIは多様な形式のデータを処理可能なため、既存の社内蓄積データを即座に活用できます。これにより、時間とコストの大幅な削減が見込まれ、データ利活用による生産性向上や顧客価値創出が加速する可能性が高まります。

専門知識を持たない人材による利用可能性

生成AIのもう一つの優位性は、専門的なデータサイエンスの知識がなくても容易に使用できる点です。従来のAI活用では、データ分析にSQLやPythonなどの知識がある程度要求されました。しかし、製造業の知識とデータサイエンスのスキルを兼ね備えた人材は稀少で、その採用や育成は簡単ではありません。

一方、生成AIは自然言語での指示に対応し、あいまいなリクエストも適切に解釈する能力を有します。これにより、製造現場の従業員や管理者が気軽に直接データ分析を行うことが可能となり、AI活用の現場浸透が一層進展する可能性があります。

海外の製造メーカーにおける生成AI活用事例

海外事例

Bosch:生成AIを活用した品質管理の効率化

紹介企業Robert Bosch GmbH(ボッシュ)
企業概要ドイツで設立された世界有数の自動車部品サプライヤーで、燃料噴射装置、ブレーキシステム、電動工具、センサー技術など、幅広い製品ラインを展開。
対象バリューチェーン製造
効果生産性向上

背景・課題

ボッシュの製造ラインでは、AIベースの画像認識を用いた自動光学検査システムが良品/不良品の判定に活用されていました。このシステムは高い信頼性を誇る一方で、膨大なデータ(不良品の画像データ)を必要とする課題を抱えていました。精度の高い検査システムの構築には、想定されるすべての欠陥パターンの画像データが不可欠であり、その収集に多大な時間を要していました。時には部品を意図的に破損させる必要さえありました。

ボッシュが製造する自動車部品は、わずかな欠陥でも重大な結果を招く可能性があり、最悪の場合、全ロットのリコールという甚大な損失につながりかねません。そのため、ボッシュの生産ラインは極めて高い製造品質を維持していますが、その結果として欠陥の発生頻度が低く、検査システムの精度向上に時間とコストを要していました。

ボッシュの品質管理システムの課題

取り組み内容

新しい生産ラインの立ち上げに際し、ボッシュは生成AIを活用することで、実際の不良品を製造することなく、あらゆる不良品タイプの画像を十分な量生成するアプローチを選択しました。

具体的には、モーター用のステーター製造における溶接プロセスに焦点を当てました。このプロセスでは、微小な穴や不要なナゲット、溶接強度不足など、6種類の潜在的欠陥が発生する可能性があります。ステーター1つあたり数百もの溶接箇所があることから、目視確認は困難であり、自動光学検査が不可欠でした。

自動光学検査で用いる品質判定モデルのトレーニングには、生成AIを用いて約15,000枚の人工画像を作成しました。これらの画像は目視では実物と区別がつかないほど精巧で、様々な欠陥パターンを網羅しています。実際の画像と生成画像を組み合わせてAIモデルを学習させることで、製造ライン上の部品の良否を1秒未満で判断できるシステムをスピーディに構築しました。

ボッシュの品質管理システムへの生成AI活用

成果

生成AIの導入により、自動光学検査モデルのトレーニング期間が大幅に短縮され、品質管理の更なる向上が実現しました。この新手法により、プロジェクト期間が6ヶ月短縮され、年間で6桁ユーロ規模の生産性向上が見込まれています。(100,000€=約1,600万円)

しかしながら、AIが過剰に敏感に反応し、実際には許容範囲内の溶接を不良と判定するケースも見られます。例えば、専門家の目では十分な品質と判断される溶接を、AIが弱い溶接として不良判定することがあります。こうした課題に対しては、手動での微調整を行っています。

この生成AIを活用した自動光学検査システムの有効性は既に実証されており、ボッシュの他拠点でも試験導入が進められ、今後さらなる展開が予定されています。

加えて、ボッシュは燃料噴射部品の検査にも生成AIの適用を検討しています。これらの部品は、その性質や複雑さゆえに、従来のルールベースやAIによる光学検査が困難でした。生成AIの活用により、AIが自律的に部品を検査し、確信度が低い場合のみ人間の目視検査員に委ねるシステムの実現を目指しています。

GA Telesis:生成AIを活用した見積プロセスの効率化

紹介企業GA Telesis, LLC
企業概要航空機部品や航空機メンテナンスサービス等をグローバルに提供するアメリカの企業
対象バリューチェーン販売
効果生産性向上・顧客価値向上

背景・課題

航空機の重要部品における大手サプライヤー、GA Telesisの営業チームは、世界中から航空機およびジェットエンジンの交換部品に関する見積もり依頼を受けています。

これらの問い合わせは標準化されておらず、営業担当者には迅速な情報の把握が求められます。具体的には、航空機やジェットエンジンのモデル、必要数量、希望状態、製造場所、納品先、納期などの重要情報を即座に把握する必要があります。さらに、航空会社の定時運航維持のため、多くの問い合わせが緊急性を帯びており、配送物流の考慮も不可欠です。

このような迅速な顧客対応は、GA Telesisの事業における重要な差別化要因となっています。しかし、事業の成長・拡大に伴い、サービスや部品の問い合わせ件数が急増し、個別対応サービスをスケーラブルに提供し続けることが課題となっていました。

取り組み内容

GA Telesisは、この課題に対応するため、Google Cloudの生成AI技術(Vertex AIプラットフォーム)を活用した革新的なデータ抽出ソリューションを開発しました。このシステムにより、注文書の自動合成が可能となり、顧客への迅速な見積もり提供を実現しました。これにより、営業チームによる電子メールと在庫状況の手動相互参照作業が不要となりました。

成果

GA Telesisは迅速な個別対応というサービスの強みを維持したまま、より多くの顧客への対応が可能となりました。GA Telesisの CEO、Abdol Moabery氏は、この最先端テクノロジーを事業の中核に据えたことで、同社の長期目標である「応答時間0分」の達成に向けて必要な自信を得ることができたと述べています。

GE Appliances:生成AIを活用した顧客体験の最適化

紹介企業GE Appliances
企業概要冷蔵庫などを取り扱う家電ブランドで、2016年までゼネラル・エレクトリック(GE)が所有していましたが、現在は中国のハイアールが所有しています。(ハイアール社はGEブランドを2056年まで使用することができます。)
対象バリューチェーンカスタマーサポート
効果顧客価値向上

背景・課題

GE Appliancesは、消費者との距離をゼロにし、ニーズに即したシームレスかつパーソナライズされた体験の提供を目指しています。

取り組み内容

GE AppliancesのSmartHQアプリは、Google CloudのVertex AI生成AIプラットフォームを活用し、革新的な機能「Flavorly™ AI」を実装しました。この機能により、ユーザーは自宅の食材に基づいたカスタムレシピを生成できます。

Flavorly AIの特徴

  • 生成AIを用いて、消費者の嗜好と手持ちの食材から高品質なレシピを作成
  • 材料リスト、調理手順、写真を含む包括的なレシピ提供
GE Appliances Flavorly AIのアプリ画像

さらに、SmartHQ アシスタントがアプリのホーム画面から利用可能となり、家電製品の使用方法や手入れに関する質問に生成AIが対応します。水フィルター交換の推奨事項から掃除のコツまで、GE Appliances のオーナーマニュアルを基に迅速かつ正確な回答を提供し、取扱説明書探しの手間を省きます

成果

消費者向けに高度にパーソナライズされた、デジタルエクスペリエンスを創出しました。

加えて、Flavorly AI 機能は、ユーザーが手元に持っている食材を分析し、腐る前にそれらの食材を使い切るように最適化されたレシピを生成することから、食品廃棄物を減らす側面もあります。同社は、米国だけで推定 1 億 2,500 万ポンドを超える食品廃棄物を削減すると見込んでいます。

GE Appliancesは継続的な改善を計画しており、Flavorly AIにレビュー機能を追加予定です。これにより、ユーザーがレシピを評価し、AIモデルの精度向上に貢献することで、さらなる顧客体験の改善を目指します。

ダッソーシステムズ:生成AIによるバーチャルツイン空間の生成

紹介企業Dassault Systèmes
企業概要ダッソーシステムズ(Dassault Systèmes)は、フランスに本社を置くソフトウェア会社で、特に製造業やエンジニアリング分野向けの3D設計、モデリング、シミュレーション、デジタルツイン技術を提供することで知られています。
対象バリューチェーン販売(広告マーケティング)
※設計・開発(企画・デザインレビュー)
効果生産性向上

背景・課題

コンシューマーブランドにとって、新製品ローンチ時の広告は認知獲得の要です。ターゲット層の嗜好、ニーズ、ライフスタイルに即した製品使用イメージを描く広告クリエイティブが不可欠です。しかし、外部制作会社への委託には、相応のコストと時間を要します。

さらに、製品開発段階でのデザインレビューにおいても、製品使用イメージを具現化するビジュアルクリエイティブが必要でした。開発初期の機密性の高い情報を外部に出しにくい状況下で、これらの準備は大変です。

取り組み内容

ダッソーシステムズは、NVIDIAのOmniverse Cloudを活用し、画期的なソリューションを実現しました。バーチャルツイン環境上の製品3Dモデルの背景や環境を、生成AIチャットを通じて自然言語で操作し、リアルタイムレンダリングする機能を開発しました。

具体的には、ダッソーシステムズの3DEXCITE技術により、3Dモデルをバーチャルツイン環境で精密にビジュアライズ。テキストによる指示をチャットで入力すると、製品の背景がリアルタイムに変化します。他にも、製品の色などを即座に変えることも可能です。

ダッソーシステムズの生成AIによるリアルタイムレンダリング

詳細が気になる方はこちらのデモ映像をご覧ください。

リアルタイムレンダリングとは?

レンダリングとは、データ処理や演算を通じて画像、映像、音声などを生成する技術です。リアルタイムレンダリングは、この処理を即時に実行し、動的な映像や視点に応じた景色の変化を実現します。

成果

新製品のマーケティングに不可欠な広告クリエイティブの制作プロセスや、新製品開発プロセス(デザインレビューや企画段階)を大きく変革し、効率化する可能性があります。

国内の製造メーカーにおける生成AI活用事例

国内事例

本田技研工業:LMMによる熟練技術者ノウハウの活用

紹介企業本田技研工業株式会社
企業概要日本を代表する輸送機器、機械工業メーカーです。 自動車・バイクだけでなく、ロボットや航空機なども製造しています。
対象バリューチェーン設計・開発
効果生産性向上

背景・課題

本田技研工業は、熟練技術者の知識を若手に効果的に伝承するため、衝突安全車両開発プロセスにAdvanced Expert System(A-ES)を導入しました。

A-ESとは?

Advanced Expert System(A-ES)は、専門知識を活用して特定の問題解決や意思決定を支援するシステムです。人工知能やルールベースのアルゴリズムを駆使し、専門家の視点でデータを分析し、適切な助言や提案を提供します。医療、法律、エンジニアリングなど、複雑な判断が求められる分野で活用され、効率的な意思決定支援を実現します。

A-ESの導入により、定型作業の効率化が実現し、価値創造に充てる時間を確保することに成功しました。しかしながら、A-ESのモデリング・ノウハウの構築には膨大な時間を要し、2万点を超える自動車部品のうち、わずか2〜3点のコンポーネントの知識モデル作成に400時間もの時間を費やしていました。これが、A-ES活用展開への障壁となっていました。

取り組み内容

本田技研工業は、IBMの専門的助言を受け、知識のモデル化プロセスの効率化に着手しました。具体的には、社内に点在する PowerPoint 資料に記録された専門知識を、生成AIを用いて抽出し、データベース化する取り組みを開始しました。

これらのPowerPoint資料は、図表やグラフが豊富である一方、テキスト情報が限られており、従来のAIによる再利用が困難でした。そこで、大規模マルチモーダル・モデル(LMM)を活用し、グラフや図の内容をテキストに変換することで、AIによる知識の再利用性を大幅に向上させました。

このプロセスを通じて得られたテキストベースの知識をデータベースに格納することで、RAG検索などの高度な知識活用が可能となりました。

本田技研工業の生成AIによる技術文書のテキスト化
LMMとは?

大規模マルチモーダル・モデル(LMM)は、テキスト、画像、音声、動画など、異なる形式(モダリティ)のデータを同時に処理・学習できるAIモデルを指します。これにより、多様な情報源からのデータを統合的に理解し、高度な推論や生成を行うことが可能になります。

RAG検索とは?

Retrieval-Augmented Generation(検索強化型生成)の略称であるRAG検索は、最新の自然言語処理技術の一つです。この手法は、外部データベースから関連情報を検索し、その情報を基にテキストを生成するプロセスを融合させたものです。RAGモデルは、外部知識を活用しつつ高精度なテキスト生成を行う点で、特に質問応答やドキュメント生成タスクにおいて優れた性能を発揮します

成果

従来のA-ES approach では、熟練技術者の経験を手引書にまとめるのに3年、その手引書からモデルを構築するのに1年を要していました。しかし、生成AIの導入により、本田技研工業の技術文書を効率的にモデル化することが可能となり、モデル化に要する期間が3年から1年へと大幅に短縮されました。これにより、知識伝承プロセスの大幅な効率化と、より広範なビジネス展開への道が開かれました。

旭鉄工:外販まで見据えた、製造現場カイゼンへの生成AI活用

紹介企業旭鉄工株式会社
企業概要旭鉄工は愛知県碧南市に本社を置き、トヨタ自動車の一次下請けとして自動車部品を製造するメーカーです。AI・IoT活用にも積極的に取り組んでおり、DX先進企業として知られています。
対象バリューチェーン製造
効果生産性向上

背景・課題

1941年創業の旭鉄工は、トヨタのTier1サプライヤーとして知られる老舗自動車部品メーカーです。従業員約430名、年間売上高約170億円の中堅企業でありながら、AIやIoTを活用したDX(デジタルトランスフォーメーション)に早期から取り組んできました。

旭鉄工のDXの成果は数字にも表れており、IoTによる可視化を起点としたカイゼン活動により、製造現場で年間4億円の労務費削減と22%の電力消費量削減を達成しています。さらに、そのノウハウを「iXacs(アイザックス)」というサービスとして外販するまでに至り、国内中堅製造業におけるDX先進企業としての地位を確立しています。

旭鉄工のDX戦略の核心は、「デジタル×現地現物」によるカイゼン活動にあります。

  • Plan:デジタルで問題確認
  • Do:現地現物で対策
  • Check:デジタルで効果確認
  • Action:現地現物で次のアクション

デジタル技術やデータを活用することで、PDCAが高速化するとともに、従業員が楽しくカイゼン活動に取り組めることを重視して、成果を出してきました。

しかし、デジタル・データ活用の進展に伴い、新たな課題も浮上しました。特に「Do」フェーズにおけるカイゼン施策の検討時、過去の改善ノウハウ・事例が膨大に蓄積され、必要な情報の抽出が困難になるという問題が生じていました

旭鉄工のデータ活用における課題

取り組み内容

この課題に対し、旭鉄工は「カイゼンGAI」システムを開発。生成AIを活用することで、大量の事例データから必要な情報を効率的に抽出できる環境を整備しました。

旭鉄工のカイゼンGAI

さらに、「AI製造部長」というシステムも導入。これは生成AIが製造ラインの稼働データを解析し、数値の変動や異常値を自然言語で分かりやすく説明する機能を持っています。

成果

カイゼンGAIやAI製造部長の具体的な効果は数値として公開されていませんが、その革新性は明らかです。例えば、カイゼンGAIは、従来は熟練工の暗黙知として存在していたノウハウを単にデータとして蓄積するだけでなく、それをデータ整備などのコストや時間をかけることなく、効果的に活用可能にしました。

また、旭鉄工は、このカイゼンGAIを既存のiXacsサービスと統合し、包括的なプラットフォームサービスとして展開する構想も持っています。

旭鉄工のカイゼンGAIプラットフォーム構想

加えて、旭鉄工では、データ分析基盤「Dr.Sum」とBIダッシュボード「MotionBoard」を統合した「旭DXエンジン」への生成AI導入も進行中です。この取り組みは、経営層向けの「月次会計データ解釈サポート」や製造部門向けの「製造ダッシュボード分析」など、多岐にわたる機能を提供しています。

経営向け:月次会計データ解釈サポート

月次会計データのMotionBoard画像を生成AIに解釈させ、経営会議における多面的な分析に役立てられ、判断のバラつきをサポートし経営判断の支援に活用。 

製造部:製造ダッシュボード分析

MotionBoardのダッシュボード情報を生成AIで分析し、その結果を現場のライン長に自動通知、さまざまなダッシュボードを参照し状況を把握する必要がある現場に効率よく情報を通知

日立製作所:「話す機械」によるアフターサービス/保守の効率化

紹介企業株式会社日立製作所
企業概要日本を代表する大手総合電機メーカーであり、情報通信システム、社会インフラシステム、電力・エネルギー、産業機器、建設機械、ヘルスケアなど多岐にわたる事業を展開しています。特に、近年はITサービスやデジタルソリューションに力を入れており、人工知能やIoT(モノのインターネット)、クラウドコンピューティングなど、デジタル変革(DX)を推進しています。
対象バリューチェーンアフターサービス
効果生産性向上

背景・課題

製造業界は少子高齢化に伴う生産労働人口の減少に直面しています。特に設備やシステムの障害対応、保守業務は人力に大きく依存し、豊富なノウハウとナレッジを必要とします。このため、人手不足解消に向けた効率化が喫緊の課題となっています。

取り組み内容

日立製作所は、熟練者不足や人員不足の現場でも、作業員が機械と円滑にコミュニケーションを取りながら問題に対処できる環境の構築に注力しています。

体的には、以下のような機能を持つシステムの開発に取り組んでいます:

  1. 異常発生時に生成AIが自動で原因を特定し、解決策を提示
  2. 設備の異常に関する問い合わせに対し、対話形式で状況を回答
  3. 障害報告書の自動生成

日立製作所は、設備保守の現場ではスマートフォンやキーボードの操作が困難な環境も多いことから、対話形式のインターフェースに対する需要が非常に高いと考えています。この需要に応えるべく、将来的には機械自体が言葉を用いて保守員と直接対話し、メンテナンス効率の向上を実現する『話す機械』の開発にも取り組んでいます。

日立製作所の話す機械

成果

具体的な数値成果はまだ公開されていません。

その他生成AI関連の取り組み

  1. 営業活動の効率化:非営業業務工数の削減
    • 新規顧客へのアプローチにおいて、事前に作成したプロンプトに顧客名を入力するだけで、生成AIがマーケティング分析、想定される経営課題、解決案などを自動生成。これにより顧客リサーチの工数を90%以上削減。
    • アンケート結果の分析では、データを生成AIに入力することでコメントの要約を自動化し、90%以上の工数削減を達成。
  2. カスタマーサポートの効率化:コールセンター業務の工数削減
    • 問い合わせに対する想定回答の作成や技術部門への取り次ぎを最適化。
    • オペレーターの業務量を約20%削減できる見込み。
  3. ソフトウェア開発の効率化:ソースコードの自動生成
    • 機能追加の要件を生成AIに入力することで、ソースコードを自動生成。
    • 大規模かつミッションクリティカルなシステムを扱う特性上、生成されたコードの直接利用には至っていないが、2027年までに同業務の生産性を30%向上させることを目標に取り組み中。

日本特殊陶業:生成AIを活用したデータ活用の民主化

紹介企業Niterra グループ 日本特殊陶業株式会社
企業概要スパークプラグをはじめとした内燃機関用関連商品、並びにニューセラミック商品の製造および販売を手がける、国際的な総合セラミックスメーカーです。
対象バリューチェーンバリューチェーン全体
効果生産性向上

背景・課題

日本特殊陶業は、データ活用において以下の課題に直面していました:

  1. データツールの不統一:社内に導入された多様な可視化・分析ツールは機能や操作性にばらつきがあり、多くはデータのローカルダウンロードにのみ使用され、プログラムによるデータ整形・活用の文化が育っていませんでした。
  2. 内部開発能力の不足:分析用データ処理やダッシュボード開発を外部ベンダーに依存し、社内の開発スキルが不足。これにより、既存データの柔軟な分析や検証が困難でした。
  3. 非効率な管理体制:システム独自のライセンス管理により、権限設定や更新、ユーザー棚卸に多大な時間を要していました。また、オンプレミス環境下での海外拠点からのデータ取得プロセスが非効率でした。

取り組み内容

これらの課題に対応するため、日本特殊陶業はGoogle Cloudの導入を決定しました。Google CloudのデータウェアハウスであるBigQueryの導入により、社内のデータを集約させつつ、高い処理能力とスケーラビリティにより、大規模データセットの高速分析が可能になりました。

また、Google Cloudの生成AI技術であるVertex AIの導入により、社内のデータ分析・可視化の障壁を大幅に低減し、各事業部門が容易にデータ分析を実施できる環境を整備しました。

具体的には、BigQueryのデータ分析に必要なSQLについて、Vertex AI によって自然言語でやりたいデータ分析を入力すると、その分析に必要なSQL文を自動生成します。これにより、SQLの知識が無い社員でもBigQueryのデータを使った分析が可能となりました。

日本特殊陶業の生成AIを活用したSQL生成

この機能は、当初英語のカラム名を指定してプロンプトを記載する形で公開予定でしたが、開発ベンダーの協力もあり、BigQueryのカラムに対する柔軟な自然言語処理機能が実現されています。例えば、「情報システム部員の名前一覧表を作りたい」と質問すると、システムは’情報システム部’を部名称カラムの要素として適宜認識し、対応する SQL クエリを生成してくれます。

成果

この取り組みにより、各事業部門がデータを容易に分析・可視化できる環境が整いました。

また、Vertex AIのSQL生成機能は、コード説明も提供するため、ユーザーのSQL理解とスキル向上に寄与しています。これにより、社内のデータリテラシーが全体的に向上することが期待されています。

さらに、本プロジェクトは同社内での生成AI活用の先駆けとなり、他部門との協業を促進しました。これは直接的なデータ活用の改善にとどまらず、会社全体のイノベーション文化醸成にも貢献しています。

製造業における生成AI活用の展望

生成AI活用の今後の展望

これまで、国内外の製造業界における生成AI活用の事例を紹介してきました。大半は生成AI活用段階のレベル2に位置する取り組み(下図参照)ですが、旭鉄工のようにレベル3の外販を視野に入れている先進的な企業も存在します。自社での活用を通じて蓄積されたノウハウと成熟したソリューションを外販するという流れは、デジタルトランスフォーメーションで観察された動向と同様です。

製造業における生成AI活用では特に、優れた製造ラインや熟練技術者のノウハウ・知見をモデル化し、現場の改善検討に活かすプロセスが加速すると予測されます。従来、製造業界ではトヨタ式カイゼンなどの手法が広く参照されてきましたが、生成AIの導入はこれらのデジタル版とも言えるでしょう。

大手企業の卓越した製造現場ノウハウを基盤とし、生成AIがコンサルタント的役割を果たして改善提案を行うプラットフォームが実現すれば、国内の多くの中小企業に普及する可能性があります。これにより、日本の製造業全体の生産性向上に寄与する潜在性を秘めていると考えられるのではないでしょうか。生成AIの活用は製造業の未来を塗り替える潜在力を持っており、その発展と普及が日本の産業競争力を強化する鍵となるかもしれません。

製造業における生成AI活用の展望

ただし、生成AIの活用を進めていくには、組織文化の変革やデータ活用基盤の構築など、デジタルトランスフォーメーションの基礎固めが不可欠です。生成AI活用でリードする旭鉄工も、大きなシステム導入よりも、まずは身近なコミュニケーションのデジタル化から着手し始めたと述べており、Slackの導入からDXを始めています。

そういった意味で、製造業企業は生成AIの活用は検討しつつ、その取り組みがしっかりと社内で広がり、継続していくためのDX基盤づくりも行っていく必要があるでしょう。

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